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第31話

 撮影後のアフターという交流会を夏樹が断ってくれて助かった。腹が減った。今すぐに何か食べたい。 「小焼。腹減ってんだろ? この近くに食べ放題の店あるらしいから、そこ行こうな。ほい、これ、ふゆが余ったお菓子くれたぞ」 「はい……」  菓子を受け取って食べておく。夏樹が車を運転してくれるので、私は隣にいるだけで良い。貰った菓子はしょっぱいが、口当たりが良い煎餅だ。今度自分でも買っておこう。これなら夏樹も食べられるだろうし。  だいぶ寒くなったので、雪がちらついている。このまま積もるだろうか……。 「この車のタイヤって、雪道も走れるんですか?」 「そのはずだぞ。一応チェーンは積んでっから、いざとなったらつけられるけど」 「……夏樹って雪遊びしたことありますか?」 「あまりこの辺じゃ積もらねぇから、数えられる程度にしか無いかもな。小焼は、色んな国に行ってたから、いっぱいあるだろ?」 「そうですね。父がよく雪だるまを作ってくれました」  身長よりも大きな雪だるまを作ってくれていたな。あとは、雪うさぎを作っていたような記憶がある。母は雪合戦のほうが好きだとか言って、雪玉を投げつけていたか……。  クリスマスの時期に雪が降るとイルミネーションと相まって美しさが増す。子どもながらに、ほうっと溜息を吐いてしまうほど見惚れたものだ。あまり見過ぎると目が痛くなるものなんだが。 「そういえば、今年のクリスマスには、アレ作ってくれるのか? 青い鯉だっけ?」 「Karpfen blauを作るには、鯉を買ってこないといけませんよ」 「あれから調べてみたんだけどさ、ネットで買えるんだってさ! 注文してみるよ!」 「そんなに食べたいんですか?」 「気になるだろ。小焼の思い出の味だし」 「思い出の味というか……。両親が乱交パーティーしていた記憶も蘇るんですが……」 「ま、まあ、そこはおいといてさ! どういう料理か気になるのは本当だぞ!」 「わかりました。作ってみます」  詳しいレシピを知らないので母に聞いておく必要があるな。メールでも送っておくか。  そうして話している間に車は食べ放題の店に到着していた。 「九十分のバイキング形式なら、いっぱい食えて良いよな」 「バイキングは日本でしか言わないので注意してくださいね」 「そうなのか!? じゃあ、他では何と言うんだ?」 「ビュッフェスタイルですかね。あれは立食形式の意味もあったような気もしなくもないですが……」 「そっかぁ。まあ、日本だとバイキングで良いな!」  私は何のために今教えたんだ。  店内はそこはかとなく人がいて、料理が並んでいる。店員に説明を聞き、料理を取りに席を立つ。  夏樹が荷物番をしてくれているが、早く戻ってやったほうが良いだろう。あいつだって、腹が減っているはずだ。 「戻りました」 「それだけで良いのか?」 「一気に持って来ると冷めてしまいますから」 「そっか。そんじゃ、おれも取ってくるよ。先に食べといてくれな」 「はい」  先に食べて良いと言われたので、手を合わせる。  目についたものを片っ端から持ってきたが、どれも味がしっかりしていて、噛みしめる度に旨みが溢れてくる。きちんと美味しい食べ放題だ。  私が一皿平らげたと同時に、夏樹が戻ってきた。 「食うの早ぇな。それだけ腹が減ってたってことなんだろうけどさ」 「美味しいので」 「そっか。美味しいなら良かったや。まずいとこだと嫌だったもんな。ほい、これ、おまえの好きな豆大福あったから持ってきた」 「まだデザートを食べる時間ではありませんが?」 「言うと思ったよ。豆大福があったことが嬉しくて持ってきちまっただけだ。後でゆっくり食べてくれ」  豆大福もあったのか。それはチェック漏れだな。まだ全体を見ていないので、何を置いているかわかっていないというのもあるが……。  とりあえず、ごはんのおかわりに行くか。

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