36 / 42

第36話

 その後は普通に体洗って、体拭き合って、髪乾かし合って、寝た!  いつまでもこんな幸せな時間が続けば良いな、と感じながら同じベッドで眠る日々が続いた。  季節は進み、ウェディングドレスが完成したので、予め「ここが良い!」と言っていた式場で撮影することになった。  普段の撮影とは違い、今回はプロのスタイリストが大集合している。  おれはウェディングドレスの着方なんて知らないので、あれよあれよと着せ替え人形のように従う。 「苦しくないですかー?」 「あい。大丈夫です。もっと締めてもらってもいけます」 「じゃあ、もう少し締めますねー。なちゅちゃんってけっこう男の体してるんですね?」 「へっ?」 「いやいや、小柄なので、華奢なのかなって思ってたんですよ」 「あ、はは……。イメージ壊してたらすみません……」 「そんなことないです! すっごくステキです!」  そっか。女装モデルやってたら華奢なイメージつくのか。  残念なことに、おれは骨格もがっしりした骨太だし、完全に首と肩出したら男だってわかるんだよな……。背は低いけど!  ドレスを着せてもらって、今度はメイクだ。髪のセットもしてくれるってんだから、すごい待遇だと思う。実際の花嫁さんも同じようにしてんのかな……。ふゆが結婚する時がきたら聞いてみたいもんだ。……あいつ、結婚できんのかな。  メイクしてくれる人は何度か現場で会ったことあるから気兼ねなく喋れる。人見知りはしねぇけど、初対面の人ばかりだと何話すか悩むから助かった。 「そういえば、小焼くんが撮影してるの先に見たんだけど、すっごくカッコイイよ」 「そりゃ見るのが楽しみだ。小焼は元からカッコイイから、更にカッコイイとなると、やべぇな。おれの心臓持つかな」 「惚れなおすと思うよ。あれは、目があったら恋に落ちちゃう!」  式場までは一緒に来たけど、それからは別行動になっているので、小焼が現在どんな姿になっているのか、おれは知らない。  メイクさんの話だと、すっげぇカッコイイようだ。元から顔がバリバリに良い男がプロの手によって、更にカッコ良くなってるって考えたらやばい。小焼のファンが増えちまう。 「はい。メイク終わりー! 次はヘアアレンジね!」 「あーい」 「よろしくお願いしまーす!」  今度はヘアスタイリストさんの出番だ。  おれは髪が長いわけじゃないし、編み込みとかもできねぇんだけど……。  小焼なら裾が長いから結んだりできるんだよな。早くすっげぇカッコイイ小焼を見たいなぁ……。  と考えている間にヘアメイクも終わった。  被せられたベールには犬耳がついてる。 「なちゅちゃん待って。これ着けてって」 「あ、はい……」  スタッフさんに慌てて渡されたのは赤いチョーカー……ではなくて、首輪だ。ネームプレートにNatsukiと彫られている。なちゅちゃんの本名バレバレになっちまうが、そこまで見ないか……。  というか、これは小焼の私物だから撮影用じゃないと思うんだけど。  でも、渡されたからには着けていくしかない。ウェディングドレスに首輪ってどうなんだ……。結婚と言う名の従属契約だとかで叩かれたり炎上しねぇか? そういう商法なのか?  それとも、これはブランドは関係なく撮影するだけか?  考えつつもチャペルに移動する。  光を多く取り込むために天窓があるから、中はとても明るくて、眩しいくらいだった。  その眩しい空間の中に、とびきり眩しいきらきらが見えた。いつでも輝いて見えるんだから、ずるいよな。  おれが来たことに気付いたようで、怖いくらいに美しい赤い瞳がこちらを見やる。 「……可愛いですね」 「あははっ、惚れなおしたか?」 「いえ別に」 「なんだよそりゃ。おれは惚れなおしたぞ! て、ひぇっ!?」  普段とは違った髪型で、真っ白い礼服に身を包んだとびきりカッコイイ小焼は、おれをいとも簡単に抱き上げた。  急に何すんだと思ったら、スタッフがブーケをおれに持たせる。ああ、撮影時間が押してんのかな……。無駄に顔が良いから、抱き上げられて近付いたらドキドキしちまうだろ! 「なんだこのブーケ。にんじんが突き刺さってんぞ!?」 「にんじんが目立つかもしれませんが、アスパラガスも刺さってます」 「お、おぉ、そうだな……」  お野菜ブーケって感じだ。  ブロッコリー、にんじん、アスパラガス、どれも普段は食卓に並んでいるもの。 「これって小焼が選んだのか?」 「いいえ。私は撮影後にこれらを食べて良いとは聞きました」 「そっかぁ……」  小焼が選んだのではないなら、アンチェさんだろうな。息子に美味しい野菜を食べさせようと考えたのかもしれねぇし。  おれを抱き上げての撮影も終わって、次は横並びだとか、小焼がおれの前に騎士のように跪くのだとか色々撮影した。  何しても小焼はカッコイイのでずるい。こりゃあもうカッコ良すぎて、ふゆのように「尊い! 死ぬ!」って騒ぎそうになるくらいだ。  小焼の頬にキスしてくださいって言われたので、チュッとした。なんか、改めてやるとちょっと恥ずかしいな。もっと色んなことやってる仲だってのに。 「はい、オッケーです! なちゅちゃんのピン撮影していきますねー!」 「あーい!」  けっこうなカットを撮影したので、小焼は休憩。と言う名のおれの撮影見学だ。  すっごく見てるな。あんまり見られたらゾクゾクするからちょっとやめてほしい。エクスカリバーが抜けちまいそうだもん。ドレスでパニエもはいてるからパッと見はわからないと思うけど、小焼なら気付いてそうだ。  もしかしてわざとか? わざとやってんのか?

ともだちにシェアしよう!