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第37話
夏樹は元から「カワイイ」と言われる顔をしている男だ。それがプロの技で更に可愛さを強調するメイクやヘアスタイルにされている。
と、言っても、特に何も思うことはない。夏樹が可愛いのは元からだ。
朝からバタバタしていて、やっと落ち着いて座れる。
「なちゅちゃんって、本当に可愛いねぇ」
「……ですね」
この人は誰だったか……。母のビジネスパートナーではあると思う。セフレではないはずだ。
誰でもいいが、夏樹をじっとり見つめる目はなんだか恐ろしい。……ああ、こういうのが不審者というものかもしれない。不審者だったとしても、撮影スタッフのはずなので、私から何か言うのは控えたほうが良さそうだ。後で母に連絡するぐらいはできるが、害が出ていないので、そのままにしておいても良い。
「ねえ、あの子を何回抱いたの?」
「は?」
いや、害がある人物だろうか。
こういう質問してくるやつは、冷やかしたいのかバカにしたいのか、はたまた好奇心なのかわからない。好奇心で聞いているにしても、シモの話は嫌われるだろうに。喜んで教えるようなやつはいるのか。
そもそも、私は夏樹を抱いたことないんだが。
「こんなウェディングドレスまで準備して、疑似結婚式までしてるんだから、ヤることヤッってんでしょ? 何回ヤッたの?」
「教える必要ありますか?」
「教えてくれても良いじゃんか。なちゅちゃんは夜どんな風に抱かれるのかって気になる人たくさんいると思うよー」
夏樹は抱かれてないんだが……。
ああ、こういう面倒臭いのは無視するのが一番かもしれない。だが、母のビジネスパートナーなら、それなりに対応しておかないとこれからの営業に支障が出るかもしれないが……。
他のスタッフは夏樹の撮影の手伝いをしているので、こちらを見ないか。
「なちゅちゃんはどんな体位が好きなのかなー?」
「そういう話題、面白いと思ってるんですか? 気持ち悪いですよ」
「っ、は? はぁ?」
「聞こえませんでしたか? 気持ち悪いって言ったんです。黙っててください。私は夏樹の撮影を静かに見ていたい」
男は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。今まで言われたことがなかったのだろうか。こういうセクハラ野郎は出禁にするべきだろう。他のモデルにも同じようなことを言っていそうな雰囲気がする。常習犯は取り締まらないと、後に続く人間が迷惑するものだ。
「男の尻にちんこ突っ込んでる変態のほうが気持ち悪ぃよ」
「そうですか。夏樹は変態なので、その認識で良いと思います」
「は、はぁ?」
「おい小焼! 今、おれのこと変態って言わなかったかー!?」
どうやら変態に私の声が聞こえたようだ。カメラの設定中だからこちらに話しかけてきているんだろう。だが、ちょうど良いか。この男をどうにかしてここから追い出すきっかけになりそうだ。
「この人が、男の尻にちんこ突っ込んでる変態が気持ち悪いと言っていたので、夏樹は変態なので肯定しておいたんです」
「な、何言ってんだおまえ!?」
「そのままですよ」
スタッフがざわついている。
この現場を仕切っているスタッフが男を呼びつけていた。
どうやら上手くいったようだ。
夏樹は次の撮影を始めるらしく、すぐにカメラのほうを向いていた。
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