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第38話
どうやら小焼は何か言われたようだ。いつも険しい顔してっけど、更に険しくなってる。眉間に皺が寄ってる。
感情が読みづらい表情筋だけど、不機嫌な時はよくわかるんだよな。
だけど、おれはおれで撮影があるので、ここから離れられない。
他のスタッフが上手くフォローしてくれているので、小焼の機嫌は良くなるはずだ。お菓子渡されてたし。
「なちゅちゃん、こっちに視線おねがーい!」
「あーい!」
ウェディングドレスでの撮影ってのも色々大変だ。
ドレスを上手く見せるコツってのは、なんとなくわかるので、おれは天才かもしれねぇな。と小焼に言うときっと「バカ」と返されそうだから言わないでおこう。
何度もシャッターを切られる度にちょっとずつポーズも変えておく。どれが採用されるかは小焼の母ちゃんが決めると思うから、おれはおれで『カワイイ』を目指す必要がある。
それが、『なちゅ』に求められたことだろうし。
「オッケーでーす!」
「撮影終わりまーす!」
「ありがとうございましたー」
なんやかんやで撮影が終わった。
式場のレンタル時間がまだ残っているらしいから、自撮りして遊んでても良いと言われたので、お言葉に甘えて自撮りしておく。
バエスタに載せる分はスタッフさんに送っておいて、ふゆにも送ってやんないとな。
「小焼ー。一緒に撮ろうぜ」
「はい」
「いやいや屈めよ。おまえ見切れすぎだろ」
「仕方ないですね」
おれと小焼じゃ身長差があるから、画角が難しい。おれの盛れる角度にするには小焼に屈んでもらう必要がある。
だけど、まったく屈む気がなさそうだ。代わりにおれを片腕で持ち上げた。
「えーっと、小焼? どうしてこうなった?」
「肩に乗るほうが良いかと思ったからですが」
「おう、良いっちゃ良いけど……、なんだかアニメのようだなぁ」
「こわくない、こわくない」
「おまえ、何のアニメ見たんだ?」
なんとなく察しがつくが、それだとおれは獣になっちまうぞ。
とりあえずツーショットの自撮りしておこう。
……小焼を上から撮影すると睨みつけてるようにしか見えねぇな。
「下ろしてくれ。おまえの目が怖い」
「ワガママですね」
「そもそも、おれは担ぎ上げろって言ってねぇから!」
「……そうだったか?」
「そうだよ。ほら、下ろしてくれ。そんで屈んでくれ」
「注文が多いな」
「それぐらい聞いてくれよ。おまえの命令いつも聞いてんだぞ、こっちは」
「はいはい」
感情がびっくりするほど感じられない返事したな。
小焼はおれを下ろすと、おれと頬をびったりくっつけてくれた。
これはこれで困る。
「近い! 近いって!」
「Nano♡Yanoはこうやって撮影してましたよ」
「あれはアイドルだから! 可愛い女の撮影法だよ! 野郎同士でやるもんじゃねぇって!」
「そうですか」
あと、普通にドキドキするとは言えない。不意打ちでこういうことを天然でやるから困るんだよな……。冗談でネタとしてやるならまだ笑って流せるんだけど、おれの宝剣が反応しちまうっての。
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