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第39話
やっと撮影が終わってひと段落ついた。後は好きに過ごして良いと言われたので、夏樹は自撮りをして遊んでいる。
ウエディングドレスを着たままなことに関しては、なんにも本人は感じないのだろうか。それとも慣れてるだけか。私がドレスを着ても似合わないことはわかるが、彼だってタキシードを着ても良いはずだ。まあ、母は彼の分をデザインしていないので、式場レンタルのものしか今は出せないだろうが。
「小焼ー? 黙ってどうしたんだ? おれの可愛さに惚れなおしたか?」
「何言ってんだバカ」
「あいあい。バカだよ。それも、おまえのことが大好きなバカだぞ」
「はぁ」
言い返すのも面倒になってきたな。
さっきからさりげなく私も映るように自撮りしているように見えるし、何を考えているだか。
ツーショットでの自撮りはさっきしたので、いったい何がしたいのかさっぱりわからない。
「私が映ったほうが良いなら入りますが?」
「いや良いよ。さっき撮ったしな!」
「では、今は何してるんですか?」
「んー? ふゆに送る用撮ってる」
「ああ、なるほど……」
私もけいに送っておくか。たまにメッセージアプリで自撮りを送ってくれるので、お返しするのも良いだろう。
いや、現役アイドルに私の写真を送ってどうするんだ。ふゆから伝わる気もする。
「どうかしたかー?」
「けいに写真を送るか悩んでいます」
「へっ? けいちゃんに? ああ、確かに送ってやったほうが良いかもな! 脚本のインスピレーションだとかなんかそういうのがありそうだし」
「ですが、相手は現役アイドルなので」
「良いんじゃねぇの? おまえのコスプレ写真をホーム画面に設定してたってふゆから聞いたぞ」
「は? 無断使用ですね。訴えます」
「訴えてやんな。訴える気無いだろうけど」
そういえば、ふゆから聞いていたような気がする。けいの推しキャラだとかなんとか……、あまり記憶が無いが。
とりあえず、夏樹に倣って自撮りしてみるか。
「表情とポーズのギャップがすげぇな。おれの真似しないほうが良いぞ」
「こんな時、どんな顔をすれば良いかわからないですね」
「笑えば良いと思うよ。って返せば良いか? それで笑うようなおまえじゃないだろ」
「おかしくもないのに笑えませんよ」
「言うと思った」
それなら言うなという話だ。
だが、夏樹の言うことには一理ある。笑うとは、どうすれば良いんだか……?
「なにか面白いこと言ってください」
「無茶言うな! おまえが笑うようなこと、プロの芸人でもけっこう難しいぞ!」
「人を機械のように言わないでくださいよ。私にも感情があるんです。傷つきました」
「全然傷ついてないだろ」
「はい」
「そういうことはすぐに返せるんだからなぁ……」
なにやら夏樹は考えている様子なので、放置して自撮りを試すか。
夏樹の真似をするのはやめたほうが良いと言われたので、そのまま撮ってみよう。鏡を撮れば全身が映るのでちょうど良いだろう。夏樹も見切れているし。
彼に確認する必要も特にないだろうから、このままけいに送ってみる。すぐに既読がついた。早いな。たまたまスマホを弄っていたのだろうか。
「もう既読ついたんですが」
「女子高生ってのはフットワーク軽いもんなぁ。ふゆだってすぐに既読ついたし、スタンプ連打してきたぞ」
「……けいからもスタンプ来ましたよ」
うさぎが顔を真っ赤にして照れているスタンプだ。
その後にシュポポポッとすごい勢いでメッセージが送られてきた。
尊い。控えめに言って最高。仰げば尊死。死因:萌え死……、本当にけいか?
「ふゆとけいって一緒にいませんか?」
「一緒にいるかもな。けいちゃんこんなにオタクしてねぇし」
「まったく……」
一番最後に、ふゆちゃんに送られました。すみません。ありがとうございます。素敵です。とメッセージが届いた。
なんだか素っ気ないな。
「これだとふゆのほうが喜んでるのが伝わって良いかもしれませんね。けいのは社交辞令に見えます」
「本当に社交辞令の可能性もあるっちゃあるけど、けいちゃんに限ってそれはねぇか。まあ、感情の出し方ってのは人それぞれだよな。小焼も他人のこと言えないぞ」
それもそうか。
……私も夏樹のようにすれば、きちんと伝わるのかもしれないな。
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