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第50話
小焼と同じ布団だとあったけぇ。小焼の体温が高いから、ぽかぽかする。
「あー、あったけぇなぁ」
「と言いつつ、どうして胸を揉んでるんですか」
「だって、目の前におっきいおっぱいがあったら、揉みたいもんだろ?」
「バカか」
「おう。おまえのことが大好きなバカだよ」
ふかふかの筋肉を寄せて上げて遊ぶ。乳首に触れると怒られることはわかってるので、触らないように、そーっと周りのふかふか筋肉部分を揉む。弾力がちょうど良くて止められねぇ。
小焼はもう怒りもしないが、諦めきったような冷え切った瞳をしていた。その視線に体が熱くなるけど『待て』と言われている以上、先に進むのは許されない。
隣の部屋も盛り上がってきているようで、喘ぎ声が大きくなっている気がする。
「隣、盛り上がってるな」
「そうですね」
小焼はまったく気にしていない様子で、おれを無視してスマホを弄りだした。片手ではおれの頭を撫でてくれているので嬉しい。
「へへっ、頭撫でてくれるの嬉しい」
「そうですか」
返事が素っ気ないのもいつものことだ。まあ、いつもどおりで良い。変にベタベタ絡んできた方が怖いし。
今は腹も減ってないだろうし、本当にもうただ寝るだけにしたいんだろう。結婚式の撮影してんだから、初夜だーとか言って、盛り上がっても良いもんだけどなぁ……。
まあ、やるのはいつでもできるし、今更初夜って言うのもおかしいか。
「小焼、スマホで何見てんだ?」
「Nano♡Yanoがライブ配信をしてます」
「おっ、どんな配信してんだ?」
「ゲームしてますね」
小焼のスマホ画面を見せてもらう。
ゲーム画面とアイドルが驚く顔を同時に見れるのって新鮮だな。こういうワイプ表示の設定ってきっちり事務所でなんか色々してるんだろうなぁ。おれはやり方すらわかんねぇけど。
「けいちゃん、あんまり驚いてねぇな」
「ホラー得意だったんですね。意外です」
「で、メイちゃんがすっごい叫んでるな……」
「推しの悲鳴からしか得られない栄養がある」
「おまえ何言ってんだ」
まあ、小焼らしい発言か。おれの悲鳴からしか得られない栄養もあったのかもしれねぇ……。
「おれの悲鳴からしか得られない栄養もあっか?」
「夏樹の悲鳴はただ興奮しますね」
それはそれで怖ぇよ。と言いかけたが、グッと我慢した。なんだか抓られる気がしたからだ。物理的に悲鳴をあげさせようとするから、怖い。だけど、それにゾクッとしちまうのも事実だ。
小焼は相変わらずスマホに視線を落としてて、片手でおれの頭を撫で続けてくれている。その無意識の仕草が、なんだかたまらなく幸せで、眠くなってきた。
「小焼ぇ、おれ眠い」
「眠いなら寝たら良いじゃないですか」
「おう、そだな……」
正論で返された。もう少しおれと会話を楽しむだとかそういう考えはないようで、小焼の視線はずっとスマホに向かったまま、音量は小さく設定されているけど、聞こえてんのか? 隣の部屋の喘ぎ声の方が大きい気がする。
「なぁ、その音量で聞こえるのか? 推しの配信なんだからもっと音量上げて良いと思うぞ」
「あんまりうるさいと夏樹が眠れないでしょう?」
「いやいや、おれがその程度の音で眠れなくなると思ったのかよ。まず、隣の喘ぎ声のほうがうるせぇし」
「……それもそうですね。大きくします」
スマホの音量が一気に大きくなる。般若心経が突然爆音で流れて、隣の部屋が小さくなった。
「ホラーゲームでそんな爆音の般若心経流れることあんだな」
「ちょうど謎解きを一つ終わらせたところですね」
スマホから流れる般若心経が、まるで隣室への嫌がらせのように響いていた。いや、実際に効果があったのか、あちらの声がすっかり聞こえなくなった。
「なんか、隣、静かになったな」
「仏の力は偉大ですね」
小焼が淡々と答える。笑いもしないのに、言葉だけでじわじわ笑えてくる。
まぶたが重くなっていく。体はぽかぽかだし、音も安定してるし……眠気が加速してきた。
「なぁ、小焼……」
「まだ起きてたんですか」
「好きぃ……」
「そうですか」
短い返事。だけど、その声が妙に優しく聞こえて胸の奥が温かくなる。
小焼は相変わらずスマホを見てる。推しの配信に集中してんだろうけど、それでも手だけはおれの髪を撫でるのを止めない。
目を閉じると、推しアイドルの笑い声と小焼の心音が混じって、変に心地良いBGMになった。
おれはそのまま、眠りに落ちていった。
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