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酸欠
な…に……?
ひとつ大きく瞬いて、香島さんを見上げる。
だけど表情は見えなくて、
静かになった部屋の中に、ただ速く強い鼓動が自分の体から漏れ聞こえてきて……
あぁ、泣いてるから、心臓が煩くて……
香島さんに気づかれたら、きっと嫌な気持ちにさせる。
ピッタリくっついている部分を離そうと、胸を押し返した。
けれど、
「皐月……」
もっと強く、抱き込まれてしまう。
「な…んで……?」
びっくりして止まっていた涙が、また溢れだした。
顔を押し付けられてる香島さんのシャツに、声と共に吸い込まれていく。
「もう一度、落ち着いて言ってごらん」
問いかけには答えず、香島さんは子供をあやすように、俺の頭を優しく撫でた。
「なに…を…?」
顔を上げると、親指の腹で頬を流れ落ちる涙をぬぐってくれる。
「皐月の言ってた、奥さん?とか、好──」
「───っ!」
ひゅっ、と喉が鳴った。
香島さんの胸をどんっ、と突き飛ばす。
「っ…ごめんなさっ、俺っ!香島さんっ、…奥さっ、いるのにっ…!」
香島さんは半歩下がっただけですぐに体勢を立て直して、俺はまたその腕の中に抱きしめられてしまう。
「だから、落ち着いて、皐月」
掌で背中を労わるように撫でてくれる。
でも、「だから」って……?
呆れられた、俺───?
嫌われた上に、呆れられた……?
「っ…香島さ──っ!?」
顔を上げた瞬間、だった。
目の前に影が掛かったのに、気づいた。
唇にふわりと何かを感じたのはそれと同時で、更に一瞬後、強く───
「っ……んっ…」
深く───
「…んぅ…っ」
唇を、重ねられていた。
頭を後ろから押さえられて、息継ぎをしたくても隙間もあけられない。
唇をぺろりと舐めた舌が上と下を押し割って侵入してくる。
中をくちゅ…とかき回されて、体に甘い痺れが走った。
求めるように絡み取られた舌は、逃げれば追われてまた囚われる。
強く舌を吸われて、気が遠くなりそうだ……。
頭の中ががふわふわと覚束なくなって、体がじんわりと熱くなる。
これは、酸欠……?
「ンんーッ……」
苦しくて声が漏れた。
くちゅ、チュッ、と絶えず聞こえていた音が止まり、唇が空気に触れる。
「はっ……ぅんっ…」
今なら息ができる、と離れようとすると、上唇が入り込んできて下唇をはむ、と噛まれた。
舌先が、唇をくすぐる。
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