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大好き
2人でベッドに寝転びながら、ずっと不思議に思ってた疑問をぶつけてみる。
「ねえ、なんでちゃんと抱っこしてくれなかったの?」
好きならもっとくっつきたい筈なのに、俺の定位置はずっと右膝の上だった。
「皐月を抱き締めたりしたら、気持ち良すぎて勃っちゃうだろ」
目を見つめながら、優しく答えてくれる。
でもそれは、俺を抱っこしながら言っちゃいけないセリフです、香島さん……。
「うっ…、そー、ですか……」
顔を赤くしてしどろもどろな俺に、
「それに脚に挟んで座らせたら、勃ってるのが当たってバレるだろ」
セクハラ満載な理由を爽やかな笑顔付きで教えてくれる。
「……なんか、香島さん、キャラ変わった…?」
ツン、と服の裾を引っ張って顔を覗きこんだ。
「皐月も、いつの間にか敬語じゃなくなってるな」
腕の中の俺を見下ろすと、香島さんは唇をピン、と弾いてくる。
「だっ…だって、香島さん、もっと大人っぽかったのに」
なんか、口に触られるの、恥ずかしい……。
「大人っぽくない俺は嫌いか?」
「好き…ですよ?」
ちょっと目を逸らしながら伝えると、香島さんは俺を腕から下ろして、ベッドの下に手を伸ばした。
そして落ちていた封筒を拾い、手渡してくる。
「そ、か。なら良かった。じゃ、これはお前に返すな」
それは、さっき俺が渡した100万円の封筒だ。
「えっ?だってこれ、元々香島さんのものでしょ」
「金なんか貰わなくても、お前に俺の時間をやりたいの」
「それはっ、嬉しいんだけど……」
毎回ご飯もご馳走してもらってたし、プレゼントも貰った。
香島さんにはもう沢山お金を使わせちゃってる。
受け取りを固辞してると、香島さんは目を細めてフッと笑う。
「じゃあ、これは契約満了解約金。で、皐月の引越し費用にすればいいだろ」
「引っ越し…?」
そう、と頷くと、香島さんは起き上がったまま両手を広げた。
「ここは狭いからずっとくっついてられて良いけど、月一じゃあもう我慢出来ない。
毎日一緒にいよう、皐月。俺の家へおいで」
プロポーズみたいなその言葉に、胸がキュンと弾んだ。
勢い良くぎゅっと抱きついて、ほっぺにちゅーする。
「───うん!大好き、香島さんっ!!」
服を捲って肌を撫でる手にくすぐったいと笑いながら、香島さんの首に腕を回してキスを交わした。
もっともっと、触って欲しい。
俺のこと、心も身体も他のことも、いっぱいいっぱい知って欲しい。
香島さんのことも、いっぱい教えて欲しい。
俺のぜんぶ、香島さんで埋め尽くして欲しい。
甘く深くなっていくキスを体中に受けながら、俺はしあわせでずっと笑っちゃってた。
「それから皐月、これからは香島さんじゃなくて、悠って呼ぶんだよ」
「うん!悠さん、大好き!」
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『100万円の契約』完
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