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プロポーズ
「皐月は、…ゲイ婚って、知ってるか?」
「げいこん…?」
知らない言葉に、顔だけ振り返る。
少し腰を上げて顔を近付けると、手のひらで唇を押さえられた。
キス、拒否された…?
「男同士だと、法律的に結婚できないだろ?だから、養子縁組って形で籍を入れるの。それがゲイ婚な」
口を尖らせていると、苦笑して触れるだけの宥めるキスをしてくる。
「うん……」
それだけのキスにもふわふわしちゃって、悠さんの腕に掴まるとほっぺを肩に擦りつけた。
「夫婦とは認められないが、籍は入れられる。養子縁組だから、親子って形になるけどな」
「うん…」
「…皐月、真面目に聞いてる?」
「聞いてるよっ!」
肩を押して離されて見上げると、悠さんはいたく真面目な顔で俺を見つめていた。
「日本じゃまだまだ、同性婚なんか認められないだろう。俺は、一生お前と添い遂げたい。だから、俺とのゲイ婚を、考えて欲しいんだ」
プロポーズされるの、これが2回目だ───
1度目は、まだ香島さんって呼んでた頃。
毎日一緒にいようって、同棲を誘ってくれた。
もしかしたら、大人の悠さんにとって、それはプロポーズなんかじゃなかったのかもしれないけど。
でも俺にとってそれは、一生を誓った言葉――だったんだ。
だから、考えるまでもない。
俺はずっと、悠さんと一緒にいたいんだから。
「する!俺、悠さんとゲイ婚、するよ!」
迷うことなんてない。
体ごと振り返って悠さんに抱きつこうとすると、
「───皐月…」
怖い顔をして、肩を押し返された。
「え……?」
な…んで……?
悠さんは小さく息を吐きだして、真剣に考えてくれ、と俺を膝から下ろす。
な…んだよ……?
自分から言い出して、なんだよその返しは…!?
考える余地なんかあんのかよ!?
なに?悠さんは俺に断られたくて、籍入れようなんて言ってきたわけ!?
もしかして……俺のこと、面倒になった?
自分からフッて遺恨が残ったら困るから、俺から別れさせようとしてる?
俺、ゲイ婚なんてしないって、そう言った方が良かった……?
───胸が痛い。
ポタリと零れた涙がひと粒、カーペットに染み込んでいった。
袖で目を擦って、ウォークインクローゼットに足を進める。
ばか…。悠さんのばか…っ…!
財布と携帯、キーケースを掴んで、止められないうち玄関に走る。
「いってきます!」
リビングに残っているであろう悠さんに呼びかけると、返事を待たずに玄関を飛び出した。
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