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同僚
どこ、行こう……
ヤケ酒とかかっこみたいけど、まだ昼間だ。居酒屋なんてやってない。
そう言えば、会社の近くに昼間からやってる立ち飲み屋があったっけ。
…でも、あそこオジサンばっかりだし、ヤケ酒ってノリでもないしな。
そもそも、居酒屋でヤケ酒もないか。
バーとか小料理屋で、お店の人に愚痴りながらのヤケ酒がテッパン?
なんとなく近所には居たくなくて、駅の改札をくぐった。
そうすると体は操られるみたいに、会社に向かう電車に乗り込む。
会社の最寄り駅には、悠さんの経営するバーがある。
けど…、まだ開いてないだろうし、常連だからって…今は行きたくない。
どっか、ファミレスでも入ろうかな。まだお腹いっぱいなんだけど。
つーか、それ以上に悠さんのせいで、胸が痛くて気持ち悪いんだけど!
喫茶店、かなぁ。
おひとり様喫茶……むぅ…。
慣れない言葉に躊躇していたその時、
「あれ?…広川?」
名前を呼ばれた。
「…あ!夏木だ!」
土曜だっていうのに、スーツ姿の同僚が、俺の方を見て手を振っていた。
おひとり様返上~♪
おっきく手を振って、夏木の元へ走る。
「夏木!休日出勤?」
「ああ。お得意さんが今日の午前中でって言うからさ、半日出てきた」
「やった、ラッキー!」
夏木は営業課の所属だから、内勤の俺とは違ってたまに休日出勤もあるんだろう。
「ラッキーってなに?」
少し嬉しそうな顔で、夏木が訊く。
夏木も、仕事の終わった午後の時間を持て余してたのかもしれない。
「俺、今すっごく誰かと一緒にいたいんだ。だから夏木、俺と遊んで」
「よし!遊ぼう!広川と遊ぶぞーっ!」
夏木、ノリいいじゃん。食い気味にオッケーしてくれた。
「どこ行く?」
「ゲーセンで対戦しよーぜ」
「ナニその学生ノリ」
「昼食った?」
「食った食った」
「俺も!イエーイ!」
「イエーイ!」
無駄にハイタッチしたりして。
こんなノリ、久しぶりですっげー楽しい!
「前にさ、俺忘れて先帰っちゃったから」
「ん?」
「夜になったらバーとか行く?1杯ぐらいならご馳走するし」
「あーっ!そうだよ、広川!お前、その節は俺の事置いて帰ってくれやがってっ」
「ごめんて。酔ってて忘れちゃったんだもん」
「だもんって…、そんな可愛ぶっても……」
「うん?」
「可愛いから許す!」
「なんだよそれは!」
歩きながら軽くどつくと、はいはい、と宥めるように手を掴まれた。
「えー?なにこの小学生感覚」
「よし!ゲーセン行くぞ!」
「おー!」
ついつい釣られて、繋がったままの手を上げる。
おんなじぐらいの身長だから、突っ張ることも引っ張られることもなくて、違和感無い。
「んで、適当に遊んだら飯食って、バーで奢りな」
「1杯だけだぞ」
「はいはい」
「んでも、今晩泊めてくれるなら2杯奢ってやる」
なんで上からだよ、とかってツッコまれるかと思った。
だけど夏木は、
「マジで!?」
何故か2杯目の酒に食いついた。
「え?いいの?泊めてもらって」
「いい、いい。むしろどうぞお越しください!」
そんなにタダ酒、飲みたかったのかな…?
「その代わり、飲みながら俺の愚痴聞いてもらうからなー」
「聞く聞く。経理の西田課長がキツイって話?」
「ちがうー。キツイけどー」
せっかく気分が浮上してたのに、ここで一気に落としたくない。
これからいっぱい遊ぶんだもん。
俺の中、ずっと、沢山、悠さんでいっぱいだったんだ。
少しぐらい…忘れて遊んでも、いいよね……?
ゲーセンを遊び倒して、服屋や靴屋を冷やかして、ファミレスで夕飯。
ほんと、学生に戻ったみたいだ。
こんな風に誰かと遊ぶの、久し振りで楽しい。
食後約束通り、夏木に付いてバーに向かう。
───って!
「えーと…、夏木、ここ?」
見知った場所に、笑顔が引きつる。
ここは……
「前に、一回来たよな」
来た。前の時。
俺が夏木を忘れて帰っちゃった店で、ここは………
ここは、悠さんと初めて逢った場所なんだ────
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