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出逢い
それから俺はカクテルを数口飲んで、カウンターの向こうのマスターを窺って──そっと席から立ち上がった。
「うわぁ」
小さく感嘆する。
青く光る水槽に、カラフルな魚たちが自由気ままに泳いでる。
赤、青、黄色、しましま。
どの魚もちっちゃくて、フリフリしてて、かわいい。
あ、ちっちゃくて透明のエビもいる!
ゆらゆら揺れる水草に、可愛い色の水車。
張り付くように水槽を眺めていると、
「魚が好きなの?」
背後から声を掛けられた。
振り返ると、背の高いスーツの男の人が立っていた。
目が合うと、くすりとひとつ笑われる。
「いや、ごめんね。あんまりにも楽しそうだったから」
目がキラキラして、と続けられるとなんだか恥ずかしくなった。
赤く染まった顔を隠すようにまた水槽に向かって、青いライトを浴びる。
「魚が好きって言うか…、なんか、綺麗で可愛かったんで」
今度は自分の発した言葉に、なんだか羞恥を感じる。
この人が大人っぽくて格好いい分、やってることも言ってることも幼い自分の子供っぽさが際立ってしまうようで、恥ずかしい。
「ここへは初めて?」
「はい」
余計なことは語らずに、大人っぽく、大人っぽく…。
自分に言い聞かせて、頷くだけに留まる。
「じゃあ、魚に餌、あげてみたくない?」
「えっ、…あげたい!」
「リュート」
思わず答えてしまうと、ふっと微笑んだその人は、振り返って誰かの名前を呼んだ。
「はい。どうしました、オ…」
返事をしたマスターに向かって、口元で人差し指を立ててみせる。
不思議に思って見上げると、なんでもないよ、と優しく目を細めた。
「魚にエサをやりたいんだけど、いいかな?」
マスターは一度奥に引っ込んで、餌の入った缶を持ってきてくれる。
「少しだけにしてくださいね、香島さん」
「はいはい、わかってるよ」
缶を受け取ると、蓋を開けて渡してくれる。
これが、香島さんとの出逢いだった。
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