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ナイトアフロディーテ
「お待たせしました。ナイトアフロディーテです」
目の前のカウンターに、コトリとカクテルグラスが置かれた。
「ありがとうございます」
マスターのリュートさんが、視線を合わせて微笑んでくれる。
「リュート、俺のは?」
「はいはい」
小さく笑いを零すと、すぐに香島さんの前にもグラスが置かれた。
「皐月、この出逢いに乾杯する?」
「え、…えー、なんか恥ずかしいなぁ」
何故かボボッと顔が熱くなったから、手のひらでパタパタと扇ぐ。
香島さんがフッと笑って、ほっぺに優しく触れた。
一度グラスに手を当てたからか、冷たくて気持ちいい。
香島さんの手のひらに顔を預けて、カクテルグラスのステムを摘む。
「キレイですね。ナイト…なんだっけ?」
「ナイトアフロディーテ。この店のオリジナルで、夜の…愛の女神、かな」
グラスの上は藍色で、下はピンクの逆三角。
キラキラと細かい銀色の光が揺れながらゆっくりと落ちていく。
「星の舞い落ちる夜空の下、出会った二人に愛が芽生える」
「あっ、これハートなんだ」
「そう。気に入った相手を口説く時に使うカクテル」
「へぇ…」
銀のキラキラが舞い落ちていく。
ほんとキレイだな。
飲んじゃうのが勿体無い。
でも、
「いただきます」
乾杯して、ひと口飲んだ。
…うん。甘くて美味しい。
飲み進んでいくと、味が変わる。
ピンクの方だ。ピンクだから甘くて、だけどちょっと辛い。
飲み干して、ふぃ~っと熱い息を吐きだした。
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