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この手じゃない

気付くと俺は、ボタボタと涙を零していた。 「広川…」 夏木が遠慮がちに背中を撫でてくれる。 優しい……なのに、身体が、心が勝手に違うと判断する。 この手じゃない。 俺が欲しいのは、このぬくもりじゃない。 「俺、結婚なんかイヤだって言えばよかったのかな…?断らないと怒るなら、なんで結婚したいとか言ったの…!?もう要らないなら、なんで手なんか出すんだよぉっ」 腕で顔を隠して、テーブルに突っ伏す。 涙が止まらなくて、しゃくり上げてしまう。 こんなとこで泣いたりしたら、リュートさんに迷惑かけちゃうのに……。 話聞いてくれてる夏木にも恥ずかしい思いをさせちゃう。 だけど、涙が溢れて止まらないんだ。 あの人にしか、俺の涙は止められないんだ。 「───広川…、俺なら、傍に居られるよ」 背中を支えてくれてた手が、ふわりと頭を撫でた。 「おんなじ会社にいるから、泣いててもすぐに駆け付けられる。それに、俺ならこんなふうに泣かせないし、広川のこと──」 「勝手に皐月を口説かないで…もらおうか…っ」 背後から、ゼエゼエと荒い息遣いが聞こえた。 「随分と早かったですね、オーナー」 顔を上げると、リュートさんがティッシュペーパーを数枚渡してくれた。 目が合うと小首を傾げて、大丈夫だよって言ってるみたいに優しく微笑む。 「リュート、烏龍茶」 「はいはい」 ビックリして見上げる先で烏龍茶を一気に飲み干すと、悠さんは両手を膝につけて、はぁー…と長く息を吐きだした。 「なんで…ここ…3階なん…っだよ…」 なかなか息が整わない。 …お、おじさんだ……。 「皐月」 呼吸が落ち着くと一転、悠さんは怖い顔をして俺の腕を引っ張った。 「待ってください!」 悠さんが掴むのとは逆の腕を夏木に引っ張られる。 これ……!両側から引かれて俺が痛いパターンのやつだ!! どっちにも負けないよう、腕を思い切り身体側に寄せた。 うぬぬ…、なんだこいつら、なんでこんなに力強いんだよーっ! 「い…たいっ!離せ!」 文句を言うと、2人の力が一気に抜けた───! 「ぐふっ…!!」 ぐおぉーっ!肘がー!両肘が自分の脇腹にぃーっ!! あまりの痛さに声も出せず床を転がり回る。 「皐月!」 「大丈夫か、広川っ!?」 ばかっ、ぶぁーっか!てめーらのせーだ! 大丈夫なわけねーだろ、ばかーーっ!!

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