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能天気じゃない

「……アンタ、俺のこと全然わかってない!」 悠さんの胸ぐらに掴みかかった。 「会社で虐められんのと病院で悠さんに会えないのと、俺がどっちが辛いって思うか、ほんとにわかんないのかよ!?」 「皐月……っ」 「今気付いたみたいな顔してんじゃねーよ!悠さんのばかっ!ばかっ!ばかーーっ!!」 ドン、と叩いた拳ごと、強く抱きしめられた。 「離せっ、ばか……」 震える手で、シャツにぎゅっとしがみつく。 いつもバーに来る時とは異なる、黒い長袖のTシャツ。 着の身着のままで駆けつけてくれたの……? 「だいたい…っ」 文句を続けようと口を開くと、堪えていた嗚咽がひぐっと漏れた。 今更だけど、恥ずかしい……。人前で号泣してしまった。 俺、大人の男なのに……。 「俺がゲイ婚するって言ってんのに、怒るとこからおかしい!俺に断らせて綺麗に別れようとしてんのかと思うじゃん。俺、もう要らないのかと思うじゃん…」 「皐月が何も考えずに能天気に返事するからだろう?」 「能天気じゃないよ!俺、ずっと、一生悠さんと一緒に居たいって、居るんだって……、だから悠さんもそう思って、言ってくれてんだと思って…」 違ったけど!と睨み上げると、親指の腹で涙をグイ、と拭われた。 「違わないだろ。──もう、お前は…」 近付いてくる悠さんの顔が、 「かわいいなぁ!」 ふにゃりと崩れた。 と思えば、ほっぺにちゅーちゅー口付けてくる。 「俺っ、怒ってんだからなっ!」 「そうか~」 なんだその態度は!! 顔を背けると、体を抱き寄せられていつものように膝の間に座らされた。 背中から抱きしめてきて、耳朶にちゅっと唇を押し当てる。 「ほら皐月、魚かわいいぞ~」 「しらないよっ!」 首を後ろに捻って文句を言っていると、悠さんに向いているのとは反対のほっぺで、ちゅって小さな音がした。 「仲直り出来てよかったね」 「リュートさん……」 リュートさんに、ちゅーされちゃった。 突然の出来事に、顔がカァーッと燃え上がる。 いい匂いした…! しなやかで柔らかかった! あぁっ、どうしよう……。なんだか胸がドキド── 「皐月…?」 「なっ、…なんですか?」 何でもない顔で振り返ってみせたけど、悠さんの目が…厳しい……。 「お…俺っ、異性愛者だから!女の子とこっそり会ってたら浮気になるけど、男相手はそーじゃないから!」 「異性愛者って……」 顔を背けた悠さんの肩が、細かく震えていた。 「悠さん……?」 袖を掴んで引っ張ると、堪え切れない様子でフッと噴き出す。 だけど、すぐに真顔に戻って、なにやらブツブツと呟きだした。 「女が好きってことは、挿れる方も有りなのか?なら、皐月はどっちも出来るってこと…?」 いや、出来ないから!男相手に挿れるとか、考えたこともないから! この人、普段はオトナで格好良いくせに、実はばかなんだな。 「言っとくけど、俺には悠さんしかいないんだからな!挿れるなら、悠さんのお尻の穴だけだからっ」 「っ…!?………それは、ごめん。いくら皐月でも…ごめん!」 両手をあわせて謝られた。 てか、挿れないよ、ばか。 それから悠さんは、店にいたお客さんみんなに騒がせたことへのお詫びにと、もう一杯ずつお酒をご馳走した。 夏木には、俺が世話になったからってフルーツバスケットとチーズの盛り合わせも付いた。 俺たち夕飯、結構がっつり食べたんだけど。 俺と悠さんは店を出て、ビルの駐車場に停めていた車でうちへ帰った。

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