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マスター

マスターの名前は、リュートさん。 照明のせいだけではないだろう、色素の薄い肌に、ブロンドにも近い飴色の長い髪を一本に束ねてる。 下ろすとさぞや綺麗なんだろうなと思うのは、彼の髪が輝いて見えるからだけじゃなくて、容姿もすこぶる整っているからだ。 切れ長の二重は長い睫毛に覆われていて、瞬きするたび影を落とす。それがまた、ミステリアスで色っぽい。 瞳の色も、肌と同じで色素が薄い。薄いと言うより、グレーだとか、ブルーっぽく見えることもある。カラコン入れてんのかな。 上唇は薄いけれど、下唇は少しだけふっくらしている。赤みがかっていて、艶っぽい。 俺は初め、この人が苦手だった。 笑顔の奥に底知れないものを感じたからだ。 笑っているのに俺を認めていない。それがありありと分かって、不快だったのかもしれない。…いや、怖かったんだな。 まあそれは、俺が彼のお兄さん(正確には従兄)であるオーナーの恋人を、それとは知らずに口説こうとしていたから、なんだけど。 だけどそんなこの人と、俺は先日関係を持ってしまった。 体の関係、ってやつだ。 付き合うとか付き合わないとか、そんな話も出ていない。 終わった後、あんまりにもこの人が自然に、何事も無かったように振る舞うから、何も言い出せなかった。 俺は、こんな歳まで──25歳まで、童貞だった。 しょうがない。…ことだと思う。 親兄弟にすらカミングアウトせずに、自分の中だけに抱え込んでいた。ずっと隠して生きてきた。 兄弟が多く私立に通う金も無かったから夢の男子校出身でもないし、初めて告白しようとした相手にはタイミングが合わずに、いつの間にか実業家の金持ちの恋人が出来てたし…。 そんな初めての経験だったから、巧く出来なくて無かったことにされたのかもな。 我慢なんかできずに、がっついちゃったもんな……。 この人だったら、ちょっと遊ぶ相手にだって困っていないだろうし。

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