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また明日

「なつきーっ!」 突然背後から、ガバリと抱きつかれた。 「えっ…、えっ!?広川!?」 「こら、皐月!」 バタバタ暴れる広川を、オーナーが引き剥がして羽交締めにする。 「んーっ、ゆーさんのヤキモチやきーっ」 「ああ、そうだよ。わかったら他の男に抱きつくな」 「抱きついてないよー。はい、抱っこぎゅーっ」 「お前はすぐそうやって………かわいいなぁ、もう。あー、なんで俺はすぐに誤魔化されるんだろうな、くそ」 どうでもいいけど、背後でいちゃつくのはやめてくれないだろうか。 独り者には目の毒、耳の毒だから。 「それより皐月、帰るんだろう」 「あ、うん。夏木、ゆーさんが、だいそーのひと呼んだんだ。いっしょに帰る?」 代走の人?100均の人…か? 「運転代行だろ。どうする、夏木も乗っていくか?良ければ先に送っていくが」 運転代行か。 オーナーの車に、たぶん後部座席にオーナーと広川。俺は助手席で、隣は代行の人……。 ちょっと…嫌だなあ……。 「あの──」 まだ早いから電車で帰ると伝えようと口を開いた瞬間、 「夏木くんはもう少し飲んでいくから」 隣から、腕を強く引かれた。 …ですよね。2人の邪魔はするなってヤツだよな。 まあ、俺も断り文句を探していたし、ここは利用させてもらって。 「そういうことなので、俺の事は気にせず、お疲れ様ってことで」 「そうか。じゃあ、気をつけて帰るんだぞ」 ご機嫌なオーナーは、俺の頭をひとつ撫でると広川の腰を抱き寄せる。 「なつき、きをつけて帰るんだぞ」 酔っぱらいの広川はオーナーのセリフを復唱すると、ふわふわした身体をオーナーに預けて、「またあした!」と手を振った。 「兄さん、代行の人の前では余りイチャつかないようにね」 リュートさんが笑って送り出す。

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