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2人きり

2人が店を出ると、水槽のモーター音がやたら大きく聞こえるようになった。 取り敢えず、これ飲んだら俺も帰るか。 少し水滴のついたグラスを口にし、小さく息を吐く。 正直2人きりだと、何を話したらいいのかわからない。 もう苦手意識は無くなったつもりだけど、だからって上手く付き合えるようになったわけじゃない。 相変わらず俺はこの人に、オーナーの敵認定されてるし。 …顔は、好みなんだよな。 いや、好みって言うか…。 この人を見て、好みはともかく、綺麗だって言わない人なんかいないだろってくらい、リュートさんは輝いてる。 俺はタイプのまったく違う広川に一目惚れした男だから、他人に言ったら「なんつー節操無し!」って言われるかもしんないけど。 もしかしてこの間接照明がそう思わせるのかも、って思ったこともあったけど、泊まった翌朝の太陽光の下でも、この人は煌めいていた。 広川には言ってないけど、俺は数回1人でローズに来たことがある。 広川のことを諦めようって決めた後。 誰か好きになれる相手はいないかって、出会い目的で訪れた。 1人、良いかなって思う相手がいた。 けど、その日だ。俺は終電間際の閉店まで居座って、バーカウンターの奥、リュートさんの居住スペースに泊まった。 彼が席を外した短い間に、耳打ちされた。 「功太と2人きりで飲みたい。…ダメかな?」 甘い声に、つい誘われた。 出会い目的、なんて言って、その実綺麗なこの人に逢いたくて通っていたようなもんだったから。 きっと、体が疼くのに店内に体を重ねる都合のいい客がいなかったから、仕方なく俺を誘ったんだろう。 そうは思ったけど…… 閉店後、俺は彼を駅まで送って、またローズへ戻った。 それ以来、ちょっといいなと思う相手にすら出会っていない。この人のせいなんじゃないかなって思う。 この人以上の相手が見つからない。 ここに来てももう、良い相手には巡り会えない気がする。 もう、潮時かな。 別の店に変えた方がいいのかもしれない。 ギムレットを飲み干して、腕時計を見る。 ほぼ残業無しで来たから、まだ9時前だ。 「マスター、ご馳走様でした。俺、帰りますね」 もう2人もとっくに車に乗っただろうし、近くで会うことはない。 立ち上がって頭を下げると、パッと両手で腕を掴まれた。 「えっ……と…?」 顔を上げると、厳しい顔で見返される。 「片付け、手伝いますか?」 「1人にするつもり?」 つもり、もなにも…… また、体が疼くってヤツかな。 なら、俺なんかより、他の上手い人呼んだ方が……。 「功太……」 切ない声で囁きかける。 ああ、これ、こないだと同じパターンだ…… 流される────

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