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誤解
「…大体、何これ?」
リュートさんが眉根を寄せて、俺の胸をトン、とひとつ叩いた。
「えっと、…コレですか?」
すっかり勃ち上がってズボンを押し上げている、欲望の象徴のようなモノを指差してみる。
リュートさんは予想通り顔をさらに真っ赤にさせると、「それじゃない」と怒ったように首を振った。
「そうじゃなくて……、なんで僕にこんなことを…?」
「なんでって…」
そりゃあ、好きだからだけど。
「僕が泣いたから、慰めようと思った?面倒だから、キスで黙らせようって…?」
「………は!?」
えっ!?なんだって…まてまて!
「功太はこういう事、慣れていそうだから……、僕は年上なのに、経験が少なくて、余裕なくて、かっこ悪い……」
「いやっ、慣れてないって!俺っ、この間まで童貞…っ」
って、いやいや、自ら申請すんのもかっこ悪いだろ…。
「え……?」
「え、じゃなくて…」
そんな吃驚した目で見つめないで欲しい。
大体、俺が慣れてるとか、どっからそんな話が出てくんだよ……。
「……や、こないだ、リュートさんと…シたのが初めてっスけど…?」
「えっ…!?」
えっえっ、煩い。
「だって、功太……、優しかったし…」
「何言ってんです。優しくすんのなんか当たり前でしょう」
「でも、誘ったら簡単に付いて来て…」
「好きな相手から声掛けられたら、そりゃ簡単について行きもしますよ。そっちこそ、誘い慣れてる感じでさ」
「っ…慣れてるわけ無いだろ!精一杯虚勢張って、声、震えないようにして…。僕の方が、年上だから…」
ああ、そんな涙でぐちょぐちょな顔、真っ赤にして怒って。
こんな、店の客には見せない顔で、俺に必死に縋って。
何処が年上なんだよ。
こんなの、愛しすぎる───
腰に両手を添えて、戸惑った表情を向けるリュートさんをカウンター席に座らせた。
カウンターの中へ勝手に入って。
「功太……?」
不安げな声が追いかけてくるけど、少しだけ放置する。
「功太っ」
「はい。ちーんして」
身を乗り出したリュートさんの鼻に、ティッシュペーパーを押し当てる。
「リュートさん、鼻ズビズビでしょ」
「功太ぁっ」
「ああ、なんでもっと泣いちゃうかな」
「どこかっ、行っちゃうかと思っ…」
「こっから何処行けるってんですか。ティッシュ取り来ただけですよ。箱ごと必要かな?はい、どうぞ」
カウンターに箱を置いて、ホールに戻る。
隣の席に座ると、慌てたように抱きついて来た。
椅子同士の隙間があるから抱き着くには身を乗り出さなくてはいけなくて、いつもよりも低い位置に来るリュートさんの頭が、可愛くて…愛しくて……。
ああ…、ヤバい。胸が締め付けられる。
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