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ヤキモチ
「こーたぁ…」
やがて嗚咽が治まった頃、俺の胸元に押し付けられてたリュートさんの顔が、漸く上を向いた。
「っ………!」
この人は…もう……
上目遣いとか、俺の心臓 狙ってんのか!!
「リュートさん、鼻真っ赤。不細工になっちゃってますよ」
上がる心拍数を少しでも抑えようと、意地悪を言って鼻を摘んだ。
途端、リュートさんは顔を伏せる。
恥ずかしくなっちゃったかな…なんて小さく笑って、あごに手を掛けると。
「っ…ごめんっ!顔、見たくないよね」
ばばばっと手を払い除けられた。
───ああ、しまった。
さっきも言ってたっけ。この人、自分の顔が嫌いなんだった。
「……どうして顔、隠すんですか?」
「……だって、僕は皐月くんとは似ても似つかないし…」
「広川?」
リュートさんの肩が、ビクンと震える。
たしかに俺は広川が好きだったけど…。
がっつり一目惚れだったから、あの顔が好みじゃないなんて嘘でしか言えないけど。
「あの…さ、リュートさん。俺、広川には随分前にフラれてんですけど」
「……知ってる」
そりゃあ、目の前でフラレてんだから知ってんだろーよ。
「でさ、とっくに踏ん切り付いてんだけど」
「でも、今日も皐月くんのこと、可愛いって…」
「……?言ったっけ?」
「言ってた…。無意識なら、尚更じゃない?」
「あー…?」
覚えがない。何時だ?
…何時───って!
「自分で振ったんだろーが!」
あれだ!
ソファー席に俺が酒運んで行ったあと、向こうから「皐月くん、可愛いよね」って振ってきたんじゃん!!
そりゃ可愛いって答えるよ!実際可愛かったし。
それ、「あの女優さん美人だよね」「ああ、そうだね」「ヒドい!私よりあの人のことが好きなのね!」的な!!
「えっ?えっ…?振ったって、なに?」
待て、待て待て…っつことは、広川と絡むと怖い顔してたのって……
「リュートさんさ、俺のこと、マスターの敵認識してたわけじゃなくて、もしかして、広川に嫉妬してた…?」
いや、まさか。
そりゃ、都合良く考え過ぎだろ。
よし、落ち着こう。一旦落ち着こう、俺。
「なに?兄さんの敵って」
腹にパスンと拳がひとつ。殴った本人は下を向いたまま、だけど……耳まで真っ赤で………
───勘違い、じゃない?もしかして。
え…?ほんとに、ヤキモチ?
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