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同情

功太が初めて店に来たとき、彼には好きな人がいた。 同じような背丈で同じ年頃の2人のうち、初めに目に付いたのは、どこか幼く可愛らしい印象の男の子の方だった。 スーツを着て、サラリーマンなのだろうけれど、まだ若々しい。 ここはゲイバーだから、初めはカップルなのかな、と思ったのだけれど、どうやらタチの方──夏木と呼ばれる青年の片想いらしかった。 初々しくて可愛いな。 2人のやりとりを微笑ましく思って見ていると、そのうち電話を受けた夏木くんが店を出て行った。 広川と呼ばれていた青年がこちらの目を気にしながらこっそり立ち上がり、水槽へと近寄っていく。 目が輝いている。 きっと、この顔を見たくて連れて来てあげたんだろうな……。 見られなくて残念だったね。 この場にいない夏木くんに同情していると、カウンター席に座っていたオーナー──従兄の悠が席を立った。 広川くんに近付いて行って、何事か話しかけている。 可哀想に……。 夏木くんに対する同情の念が益々深まった。 あの子じゃ、兄さんには勝てないだろう。 広川くんは、夏木くんの想いに気付いていないようだった。 こんな仕事をしているせいか、他人の恋心の機微には敏感だ。 友達としか見られていない。その様に見受けられた。 一方、兄さんは男─ネコ─の扱いを心得ている。 最近は落ち着いているが、20代の頃は相当場数を踏んでいた。 例えば、来店の度に僕を口説いてくれていたタチのお客さんを、ネコに変えてしまったほどに。 魚の餌をやりたいと言うから、部屋から取ってきてあげた。 兄さんから缶を渡された広川くんは、餌を降らせると群がる魚たちに目をキラキラと輝かせる。 純粋で可愛い。 僕もああ言う子に生まれてきたかったな……。 いや、育ち、かな。 素直に感情を表に出せて、沢山の人に愛される───好きな人に好きって、ちゃんと伝えられそうだな、彼なら。 兄さんは、いつも男を口説く時に使うカクテルをオーダーし、そして酔った彼を送ると言って店を出て行った。 可哀想な夏木くん。

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