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拒絶の理由
リュートさんは顔を洗って、俺は歯を磨いて、タオルを出してくれたからお礼を言って受け取る。
正面から向き合って、抱き締めてキスしようとすると、リュートさんは居心地悪そうにモゾモゾした。
「あの…、昨日の記憶が曖昧です…」
「…あー……」
そんで、俺の告白しっかり伝わってなかったわけね。
無かったことにされてたっつーか。
「エッチで記憶飛んじゃうって、俺はリュートさんの過去が心配ですよ」
「それはっ、…大丈夫。こんなに気持ち良くしてくれたの、夏木くんが…」
「功太です」
「う……、功太…が、初めて…」
今度こそ、その体を抱き締めて、頬に口付け髪を撫でる。
「明け方、夢を見て……、功太が、やっぱりもう来ないって…。僕の事は、好みじゃないからって」
リュートさんはしゃくりあげて、胸にしがみついてくる。
それは、確かにどちらも一度口にした言葉で…。
だけど、まさかこの人の深層に根付いて心を蝕んでしまうくらい、強い拒絶に取られていたなんて……
「泣きながら目が覚めたのに、功太は全然起きてくれなくて、だから、それはきっと本当の事なんだって……っ」
「もーっ、そういう時は俺のこと起こさなきゃダメだろ?」
「そんなことしたら、もっと嫌われるっ」
「俺なんかがそんな愛されてるって方がビックリだよ」
オーナーと広川の仲を邪魔する悪者だ、と思われているとずっと感じていたから。
こんなに綺麗な人が俺に嫌われたくなくてグチャグチャに泣いちゃうなんて、思わないじゃないか。
「また鼻水垂れてるし」
「うっ…!?」
鼻を摘もうとしたら、ドンと突き飛ばすように逃げられた。
サイドテーブルに乗るケースからティッシュをババっと取り出すと、隠れるようにして鼻をかむ。
それからベッドの陰からちょっと顔を出して、こっちの様子を伺う。
って、小動物か!
どう扱ったら良いんだろう……?
好きだと言いまくっても伝わらないし、すぐに泣いちゃうし。しかもボロ泣きだし。
大体、男から好かれやすいって自覚が全く無い。
客から本気で口説かれてるトコ何度も見てるし、本気で分かってないのが不思議でならない。
顔が気持ち悪いって、全然そんなことないし、むしろ美人過ぎて困るレベルだし!!
「ねえ、リュートさん…」
名前を呼べば、そろそろと顔を覗かせる。
目ぇ真っ赤じゃん…。
ちょっと泣き過ぎじゃねーの?
貴方はこんな泣き虫だったの?
それとも、俺のせいで泣き虫になっちゃったの…?
「俺、いない方がいいかな?」
「えっ……?」
立ち上がった、その顔が一気に不安の色を帯びる。
目がまあるく見開かれて、瞳が揺れ動く。
「スーツ、広川に渡す。別の店で、誰かを探す。そしたらさ、リュートさん、もう泣かない?」
パンツは捨てないで取っとくかもだけど。と緩く笑うと、
リュートさんは涙をぽろりと零し、
かぶりを大きく振って、
走りだそうとして───
「こー…っ!?はわっ!!」
ビターン!!と派手に転んだ。
「ちょっ!大丈夫!?」
慌てて駆けつけて、抱き起こす。
「大丈夫じゃ…ない…っ」
「うっ……わぁ……」
先に言っておく。
引いたわけじゃない!決して引いたわけじゃない!!
「鼻血、出てるし…」
「功太が変なことを言うから鼻血が出ちゃったんじゃないかっ!!」
いやいや、変なこと言うから鼻血出たって……。エロいことならともかくさ。
「鼻、打ったんでしょ?大丈夫?」
「……ティッシュ~っ!」
サイドテーブルのティッシュを取れって、手をバタバタ動かす。
「ちょ、この人、昨日まで年上がどうこう言ってなかった?」
「煩い!もう無理!」
「煩いって……。鼻血舐めちゃおうかな、もう」
「えっ!?…ゃぁっ、むりぃっ!」
「なに想像してエロい声出してんすか。はい、鼻押さえて」
ティッシュを渡して、顔を隠しながら鼻を押さえる横顔を見て……
ああ…、勝てねえなぁ、と。
やっぱりムリだし。この人に一度愛されちゃったら、もし嫌われても、もう他の人になんて目移り出来ねえし。
他の店行ったとこで、誰が見つかんだよ。
それに、他の誰にもこの人を渡したくない。
この人が他の誰かの為に泣くかもなんて考えたら、そんだけで腹ン中沸騰してぶっ壊れそうだ。
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