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可愛い生き物
ベッドに腰掛けて、サイドテーブルに置いておいたスマホを手に取る。
まだ6時台だけど、そろそろ起きてんだろ。
名前を選んで発信を押すと、スマホから耳元にだけ発されるはずの呼出音が静かな室内にやけに大きく響いた。
リュートさんが振り返る。
『はいは~い。俺俺~』
やたらに陽気なオレオレ詐欺が電話に出た。
「おはよ、俺俺」
返す俺もオレオレ詐欺。
『おはよッすー!で、昨日、どだった!?』
やっぱりそれが聞きたいわけね。この高めのテンション。
「朝から人のセックスの話聞きたがるなんて、広川は随分エッチな子なんだね」
ワザと恥ずかしがる言い方をしてクスリと笑ってやると、ガタガタッと音がして、しばらく通話が途切れた。
スマホ、取り落としたかな?
『ばかっ!ばか夏木っ!そーいうこと聞いてんじゃないじゃん!ばかーっ!』
あはは、慌ててる慌ててる。可愛いなぁ。
どうやらオーナーが電話を聞きつけたらしく、後ろから暴れる広川を宥める声が聞こえてくる。
「でさ、広川」
『無視すんな!訂正して謝罪しろーっ!』
「はいはい。ごめんごめん。んで、今日なんだけどさ」
『なんだよー?』
こんな謝罪で許してくれんのね。ほんと、優しいっつーか、甘いよな、広川って。
「俺、風邪ひいて熱が39度近く出ちゃってさ」
『えっ!?』
「で、会社休みたいんだけど、喉が涸れて声も出なくて電話出来なくてさ」
『そうなの!?大丈夫!?…じゃないか。じゃあ俺が営業部行ってそう言っとくよ』
「ありがと。メールで届いたって言っといてくれる?」
『うん、わかった!お大事にな!』
ほんと、甘いよね、広川って。
声出ない程喉涸れてんのに、なんで自分とは話ができるんだろう、とか全然考えねーのな。
「可愛いなぁ、ほんと」
携帯を戻して、ネクタイを外す。
キツイし、破いたりする前にスーツパンツも脱いで、ワイシャツのボタンを外して、さて……
格好悪いけど、パンツ一丁でもう一度スマホを手繰り寄せる。
染み抜き、けつ……
「功太……?」
「うん?…ちょっと待ってくださいねー」
調べたい情報を見つけて。
取り敢えず風呂でいいかな?
ワイシャツを持って部屋を出ようとすると、リュートさんが追いかけてくる。
「鼻血止まった?」
「うん」
「じゃあ、また顔と手、洗わないと」
「うん」
…かわいい。まるで刷り込みで俺のこと親だと思っちゃってるヒヨコみたいだ。
ニヤけそうになる顔の筋肉をキュッと締めて、何でもない風を装う。
「じゃあ、俺こっちなんで」
水が掛かっちゃうと悪いし、洗面所で別れて浴室に入った。
「あっ、功太…」
追いかけてくる手が堪らぬ、可愛い。
なんだもう、あの可愛い生き物は!
ワイシャツの、赤く汚れた場所に水を流す。
さっき、リュートさんを抱き起こした時に付いた鼻血だ。
可愛かったなぁ…、鼻血垂らしてるリュートさん。
なんかもう、リュートさんなら何しても可愛いっつーか!
俺、いつの間にか相当惚れてたんだな…。
ヤバいヤバい。気付くと顔がニヤけてる。
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