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可愛くて仕方ないのに
こんな顔、リュートさんには見せらんない。
ニヤけた顔を引き締めて、ワイシャツの汚れた部分を確認する。
すぐだったら水だけで汚れが落ちるって書いてあったけど…。
落ちなかったら中性洗剤で洗ってから、酸素系漂白剤だっけか?
ここん家、置いてあるかな。無かったら買いに行かねーと。
っても、俺高熱で寝込んでることになってるから、リュートさんに買って来てもらわなきゃだな。
爪でゴシゴシこすって流す。ちょっと絞って電灯に翳して。
……平気かな?
俺の目では、もう汚れてるように見えないけど。
「リュートさん……うわっ」
確認してもらおうと風呂のドアを開けてリュートさんを呼んだ瞬間、ドアの先に長く伸びた脚に躓いて壁に手を付いた。
「なに!?」
なんでそんなとこに座り込んでんの、この人は。
「俺のこと待ってた?」
リュートさんは俺を見上げると、静かに首を横に振る。
「…どうしたら、可愛いって思ってもらえるのか…考えてた」
「え、……えー……?」
一体何を言い出した。
これ以上可愛くなられたら、こっちが鼻血止まらなくなって出血多量で死ぬっつーの。
「年下にはなれないし、そもそも可愛いってタイプじゃないし…」
「あの…さ、俺リュートさんに…」
可愛いって散々言ってなかったっけ?と訊きたかったんだけど、
「功太、そこボタボタ垂れてる」
足下を指差されて慌てて風呂に戻った。
「伝わってなかったっすかねー?」
ワイシャツを力を入れずに絞りながら声を掛ける。
「何がですか?」
またっすか、また敬語っすか!
「俺、俺に跨って腰振ってるリュートさんも、鼻血垂らしてるリュートさんも、誰より可愛くてしょーがないんだけど」
「っ!?………もうちょっと、まともな部分を褒めてください…」
「ですよねー」
例えが悪かったのだろう。まあ、ワザと言ったんだけど。
顔だけ覗かせるとぷぅと膨れる頬が見えて、可愛くて笑えてくる。
「リュートさん、ワイシャツに付いた鼻血取れたっぽい。一応確認してもらえますか?」
手招きすると、ハッと顔を上げて立ち上がった。
「染み抜きしてくれてたの?」
「染み抜きってほどじゃないけどね。すぐ落とさないと血液は落ちづらいって書いてあったから。借りたワイシャツ汚したから、会社も行けなくなっちゃった」
落ち込んだ様子のリュートさんの頭を、濡れた手をタオルで拭いてから、イイコイイコと撫でる。
「お陰で1日暇になっちゃったし、可愛い可愛い恋人のリュートさんに、一日中構ってもらえたら嬉しいんですけど」
「僕も……」
「ん?」
頬に触れて、顔を上げさせる。
逸らされていた瞳が揺れ動いて、やがて俺の目を真っ直ぐに捉えた。
「違う。…僕の方が、功太に構って欲しい。僕の方が勝ってる!」
「は…ははっ、なにその勝ち負け!」
「っ…煩いっ!」
ワイシャツを奪うように取ると、リュートさんはそれを丁寧に畳んでネットにしまった。
そして、他の洗濯物と一緒に洗濯機に放り込む。
「功太が洗い物しちゃったから…」
「…ん?」
「洗濯機回ってる間、やること無くなっちゃった」
洗面台で手を流して、先に洗った俺に新しいタオルを渡して。
「じゃ、リュートさんの腰でも揉もうかな。昨日無理させすぎちゃったから」
腰に手を回してギュッとお尻を握ると、体を擦り付けてくる。
ほら、たまらん可愛さじゃん。
「それは、あとで…いいですか?」
「後でもいつでも揉みますよ」
「あの…だから、先に……」
窓から朝陽が差し込んでるってのに、モジモジと物言いたげなこの人は、可愛いと言うより矢鱈と色っぽくて…。
分からないフリを続ける俺の腕をツイと引いて、耳元に囁きかける。
「功太……、僕のこと、好き?」
グオン───と、体中の熱が下半身に集中した。
「あの…、両想いになった、記念…と言うか…っ」
「そんなん、両想いとか、昨日の夜から知ってるっつーの!」
抱き上げて、足早に部屋へ戻り、リュートさんの体をベッドへほっぽり出す。
「あっ…やっ、乱暴にしないでっ」
「とかって、乱暴にされるの好きなクセに」
身体の上に乗り上げて、邪魔な衣服を剥ぎ取ろうとシャツを裾から捲り上げて───
「──あっ!!」
突然上がった大声に阻止された。
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