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長い週末
俺を右膝に乗せたまま、時折何かを話しながら、香島さんは明るい部屋でテレビを見てる。
そして、午後11時──いつも通りだ。
「皐月、そろそろ帰るよ」
膝の上から俺を下ろして、日付が変わる前に帰っていく。
何をするわけでもない。
抱き合うわけでもない。
キスを交わすわけでもない。
「またね、皐月」
「はい。おやすみなさい、香島さん」
手を振り合って、玄関ドアが閉まる。
そして俺はまた、100万円を手に入れる。
きっと口座に入っているであろう、架空の100万円を。
毎回、その日のうちに車で帰っていく香島さん。
多分、家では家族が待っているんだろう。
綺麗な奥さんと、…きっと、3つぐらいの可愛い娘さん。
……うん。香島さんには、そういう幸せそうな家庭が似合ってる。
ベッドに座るのは、うちが狭くてソファーも置けてないからだ。
膝に乗せるのは、きっと飼い犬の感覚。
恋人だったら足の間に座らせて、後ろから抱きしめるだろうから。
───ペット契約……?
うん。それならしっくり来るな。
ケーキとかプリンとかゼリーとか、買ってきてくれたデザートを食べるときはいつも、香島さんは口まで運んで食べさせようとしてくれるから。
……ペット?いや、幼児感覚なのかもしれない。
香島さん、男の子が欲しかったのかな。
髪を梳くのも好きだし、喉を撫でてきたり、疲れたって言ったら膝枕してくれたり。
………もしかして、子猫か!?
子猫感覚なのか、俺!?
子猫に月100万円とか……
「どんな金持ちの道楽だよ、それ」
思わず声に出して、ははっと笑ってしまう。
髪を撫でられるのが好きで、喉をくすぐられるのも気持ち良くて…。
もっと触ってほしい――って思ってんのも、月一じゃなくてもっと逢いたいって思ってんのも、俺だけ…で………。
ベッドから勢いよく起き上がって、風呂に向かった。
火照った体をシャワーで冷まし、ユニットバスにお湯を溜めながらしばらくボーっと座り込む。
まだ、11時半くらい、かな…。
土日は休みで、月曜日からまた仕事。
明日も、なんも予定無い……。
香島さんと逢う日の次の日は、用事を入れないようにしているから。
もしも突然泊まっていくとか、明日も一緒にいようって言われても、いつでも応じられるように。
だって、契約だから。
「明日、なにしよ……」
休みが、長い。
香島さんが帰った後の土日は、気が遠くなるほど長い。
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