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第4部【伝えたい未来】
仕事中、悠さんからLimeが届いた。
『今日は定時に終わる?
ローズに行きたいんだけど、どうかな?』
今日はローズの定休日でもないし、仕事納めの金曜日でもない。
珍しいな、と思いながらも返事を打った。
『終わりそう。
てか、頑張って終わらす!』
机に乗った書類の山は、就業終了時刻までの後30分で急げばなんとか終わりそうな量だ。
相当飛ばさなきゃだけど。
『了解。
会社の前まで迎えに行く。
夏木も誘っておいて。』
夏木…?
誘うのは構わないけど。
営業部の席に目をやっても、夏木の姿は見当たらない。
外回り、かな?
Lime送っといたら気付くかな?
『ローズ行くぞ。
早く帰って来ーい!!(*ノ´O`*)ノ』
ババっと文字を打ち込んで、夏木に送信。
そして俺はスマホをポケットにしまって、目の前の仕事に取り掛かった。
その後、就業終了時刻ギリギリに戻ってきた夏木を営業の先輩から攫うようにして、悠さんが待っているであろう表へ急いだ。
会社の入るビルの前に、しっとりとした黒色のセダン車を見つけて走り寄る。
辿り着くより前に、運転席のドアが開く。
悠さんがわざわざ表に出て迎えてくれた。
「お疲れ様、皐月」
大きな手のひらで頭を撫でてくれる。
「ただいま、悠さん。早かったね」
「ああ。今日は外回りからの直帰コース」
抱きついてちゅーしたいけど、会社の前だしな。人前だしなぁ。
我慢して、開けてくれた助手席のドアから車に乗り込む。
「つか、目立ってしょーがないから裏に停めましょうよ」
溜め息を吐きながら、夏木も後部座席に乗ってくる。
「高そうな車に背の高いオトナイケメンとか、OLの視線独り占めじゃないですか」
「OLの、ね。俺は皐月の視線だけ独り占めできればそれでいいんだが」
「はいはい、ご馳走様です。シートベルトオッケーでーす」
夏木の言葉を受け、自分もシートベルトをはめると、悠さんはゆっくりと車を発進させた。
「でさ、夏木」
隣に座る俺じゃなくて、何故か夏木に話しかける。
「ローズ、今日、急遽定休日にした」
「急遽って…、何かありました?」
夏木の問い掛けに悠さんは、やはり何も聞いていないか、とため息まじりに呟く。
「ローズの常連の赤瀬さんって分かるか?」
「分かります。香島さんの経営するイタリアンレストランの店長さんですよね」
赤瀬さん。リュートさん目当てにローズに通ってる、渋いおじさまだ。
悠さんとはまた違った大人の魅力がドスゴイ人。
「その赤瀬さんが昨日ローズで飲んでた時の話なんだが」
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