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頼りになる男たち
いつも通り、落ち着いた雰囲気と楽しげな笑い声の溢れるローズに、昨夜は珍客が現れたと言う。
時々そういう客はやってくるらしいんだけど。
冷やかしの、ゲイではない人。
ローズに入ってきた時、何軒目だったのか彼らはもう出来上がっていて、その声の大きさと下品さに、先に店内にいたカップル客達は早々にチェックを済ませ帰っていったそうだ。
残ったのは赤瀬さんと、他1人で来ていた常連さん2人。
そして、カウンター席に陣取った3人の客は、リュートさんをからかい始めたのだと言う。
「ねえ、ここゲイバーなんでしょ?お兄さんもホモなわけ?」
ニヤニヤと下卑た笑いを浮かべる男に注意をしようとした赤瀬さんを、リュートさんが目で止めた。
「お客様方、少々お声の音量を抑えて頂いてもよろしいでしょうか。当店はお客様に気持ち良くご利用頂けるよう───」
「気持ち良くって、お兄さんも男に抱かれてアンアン啼いちゃう系?」
「っ……」
「あれ、その顔、やっぱそっちだった?綺麗な顔してんもんな」
「俺、お兄さんだったら男でもイケるかも」
「えっ、お前マジでー?」
「ジョーダンジョーダン、んなワケねーじゃん!男同士ってどこに突っ込むと思ってんのオメー」
「うわっ、そういう生々しい事言っちゃう!?ウケんだけどマジでェ」
堪え切れずに再び止めようとした赤瀬さんを、今度は手で押さえて止めると、リュートさんは彼らに向かって優しく微笑んだ。
「お客様方の仰るとおり、此処は男性同士で楽しんで頂くお店ですので、女性が好きな方々には向かないかもしれませんね。
ですが、そろそろいつものお姉様方のいらっしゃる時間ですし、彼女たちでしたらノンケの男性のお相手もして頂けるかと」
「彼女たち?」
男たちの顔が、だらしのない表情に変わる。
しかしその直後、
「ええ。ニューハーフのお姉様方です。男ばかりで退屈な場所でしょうが、もう1~2分お待ちいただけますか?お客様方にも楽しんでいただけると思いますよ」
うっとりとしてしまうような輝くリュートさんの微笑を受けて、そいつ等は見惚れるどころか真っ青な顔を隠そうともせずに、転がるように逃げ帰っていった───らしい。
リュートさんの大人な対応に、赤瀬さんは甚く感心した。
……が、男達の背を見送った後の彼の振り向き様の表情がどうにも気になって。と赤瀬さんは続けたそうだ。
「───っんだよ、ソレ…」
夏木が低く、唸り声をあげた。
そうだ。まったくもって酷い話だ!
リュートさんもお客さん達も、誰もそいつらに迷惑なんか掛けてないのに、人を傷つけるようなことを平気で言うなんて……
許せん!そいつら見つけ出してリュートさんの前に引きずりだして、ごめんなさいって頭下げさせたい!!
それに!ニューハーフのお姉さん達にだって、好みがあるはずだもん!話聞いただけで逃げるなんて、なんて失礼な奴ら!!
そんなヤな奴らなんかお姉さん達だってキライだもん!
俺はその男たちに憤っていたから、夏木の絞り出されたような言葉に、一瞬思考がついていかなかった。
「なんで、言ってこねーんだよ…」
「えっ…?」
振り返って見た先で、夏木は震える拳を太腿に叩きつける。
「すぐ、俺に電話してこいっつーの…。一人でなんでも抱え込んで……、そんなに俺は頼りになんねーのかよ!」
おっ…おぉっ……!
「ゆーさんゆーさん」
車がローズ近くの駐車場に停車すると、完全停止するのも待てないようで、夏木は飛び出すように後部座席から降りていった。
「夏木、リュートさんに怒ってたね」
「だな。俺としては、相手に対してでも別に良かったんだが」
「ん?」
ドアを開けようとすると、手首を掴んで止められた。
掌がほっぺに触れて、唇が重なる。
「皐月……。お前は、困ったことや悲しいことがあったら、全部俺に話しなさい。俺は、頼りになる良いオトコ、だろ?」
「うん。…ふふっ」
思わず笑っちゃうと、指先で額を突かれる。
「夏木もな、リュートに丸ごと頼って欲しいんだろ。アイツが年上だからと気にするせいで、夏木にもそれがうつってやがる」
「そうなんだ……。でも夏木はイイヤツだから大丈夫だよ!」
自信満々に断言すると、悠さんは「それも複雑だなあ」と嘯いて、俺の髪をサラリと撫でた。
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