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客とバーテンの温度差[1]

【夏木Side】 駐車場に車が完全停止するのも待てず、俺は外へと飛び出した。 1秒でも早く、リュートさんに逢いたかったから。 文句を言ってやりたかったから。 それから─── 4階に停まっている分からず屋のエレベーターは無視して、階段を駆け上った。 closedの札の掛かる扉は、勢いのままにぶつかると簡単に押し開いた。 「いらっしゃい、兄さん」 早かったね、なんて呑気な声が聞こえて、思わずムッとする。 当たり前に香島さんだと思いやがって。 誰か危ない奴が乗り込んできたとか思わないの? 話を聞いた俺が、心配で駆けつけたとか思わねえのかよ…! カウンターにカツカツと靴音高く歩み寄り、目の前で止まる。 下を向いて作業をしていたリュートさんは、何も答えない俺に、 「兄さん…?」 不思議そうに顔を上げて、目を大きく見開いた。 「え……功太…?」 「え?じゃねーよ…」 「1人で来てくれたの?」 嬉しそうに訊いてくるから、手招きしてカウンターの外に呼び出す。 「今日臨時休業だから、2人で居られるね。嬉しい」 素直に喜んで抱きついてくる姿を見ていると、このまま抱きしめるのもいいかな、とも思うけど……。 心を鬼にして、 「功太…」 頬を摺り寄せてくる愛しい人を……… 「っ……あーっ、くそっ!!」 無理矢理引き剥がした……っ! ビクッと体を強張らせて、不安げな瞳が見つめてくる。 怒ってるけど嫌いになったんじゃない。 先にそれを伝えるために、唇を軽く重ねる。 動揺しながらも、もっととせがんでくる姿は可愛いけど、ここで…ここで乗せられちゃダメだ!男を見せろ、夏木功太!! 「…っんで、俺に電話してこなかったの?」 責める視線に、リュートさんはなんのことがすぐに気付いたようで、あっと小さく声を漏らした。 「俺、そんなに頼りない?年下相手に泣きつくのかっこ悪いとか思ってんの?」 「…だって、功太、仕事中かもしれないし、疲れて寝てるかもって…」 ……それは、年上としての配慮なわけ?

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