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客とバーテンの温度差[4]
【夏木Side】
左腕で背中を支えながら、啄むようなキスを繰り返す。
右手で耳朶を弄ぶと、リュートさんは擽ったそうに小さく声を零して笑った。
「物足りなくない?」
さっき擦り合わせていたソコに全然触れていなかったから、少しからかい混じりに笑い掛ける。
リュートさんはまるで少女のように頬を赤く染めると、背中に腕を回してぎゅっと抱きついてきた。
「こういうの…嬉しいよ。しあわせ」
う………うわあっ!なんだこの感覚は!?
叫び出したいような、転げまわっちゃいたいような。
心臓がギュッと鷲掴みされたみたいに、苦しくて……なんか、泣きそう。
「エッチするのも好きだけどね、こうやってくっついていちゃいちゃしてると、功太にすごく愛されてるみたいで……」
ふぅ……、と甘い溜息。
「みたいじゃなくて、滅茶苦茶愛してんスけど」
口を尖らせると、ふふっと可笑しそうに笑った。
「功太、僕も……滅茶苦茶愛してるよ」
「っ………あーっ、もう!かわいい!愛しい!なんだコレはーっ!!」
「あははっ、若いっていいね」
「ちょっと!俺の深~い愛を『若い』の一言で片付けないでくれます!? リュートさんだってそう歳いってる訳じゃないんでしょ」
「…ふふっ…あははっ。25の功太にそんなこと言われるなんて。一体幾つに見えてるの、僕って?」
笑い飛ばされて、ちょっと不安になる。
2~3コ上かな?って思ってたけど、……え?一体幾つなんだ、リュートさん!?
いや、仮令 アラフォーだって言われても好きなのは変わらないし、リュートさんだったら何歳だって愛し抜くけど!
「ちなみに、リュートさんって何歳?」
おそるおそる尋ねると、
「引かれたくないから教えない」
膝からするりと下りた。
「引かないし!」
「なに飲む?」
行き成りのバーテンモード。
接客用のすました顔をして、カウンターの向こうへ入っていく。
「……リュートさん。好きだからな」
「ありがとう。僕も好きだよ、功太」
カウンターを挟んだこっちと向こう。
客とバーテンの温度差を感じて、離れた身体が急激に凍えそうに冷えていくのを感じた。
「ホントに、何かあったらすぐに連絡しろよ」
熱を取り戻そうと、必死に声を掛ける。
「うん、そうするよ」
社交辞令みたいな返事が悔しい。
俺とリュートさんの間には、それ程までに───愛なんかじゃ埋め切れない程に、年齢の距離があるってことなんだろうか。
「毎日…飲みに来ようかな…」
「ここ、そんなに安くないでしょ。お金が持たないよ」
恋人だからって、飲んだ分はちゃんと頂くからね、とくすりと笑いながら続ける様は、常連のお客さんに対するそれと何ら変わらない。
「赤瀬さんにはそんなこと言わないのに…」
あの人のイタリアンレストランはここから徒歩10分程度の場所にあって、店が早番の時は決まってローズに来ているらしい。
月のほぼ半分。
そりゃあ、人気店を任される店長の稼ぎと、入社4年目の平社員の給料じゃ、…こっちは頼りないかもしれないけどさ。
それにどう考えても、リュートさんには青臭い若造の恋人より、あんな感じの渋いおじさまのパトロンがいるって方が似合ってんだろうし、信憑性だって高いし。
金が無いのはこの際仕方無いとして、
「一緒に住めたらなぁ…」
すぐに駆け付けることができるのに。
泣きそうになってたって、我慢なんてさせないで抱きしめて泣かせてあげられるのに……
「俺って…なんも出来ねーのな……」
やっぱり、他の店行って他の人探した方が、お互いの為───なんだろうな……
カウンターの下に沈み込んで、深く溜息を吐き出す。
ああー、さっきとは別の意味で泣きそう。
あんなしあわせだったのにな…。
俺の不用意な一言が、知らずリュートさんを傷付けちゃったんだろう。
年齢なんて気にしないって本当に思ってるけど、『気にしない』って断ってる時点で、リュートさんに年齢差の重みを与えちまってんのかも。
考えれば考えるほど、今日は思考がマイナスにしか進まない気がする。
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