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兄心[1]
【夏木Side】
粘土みたいな味のドリアをビールで流し込んだ。
食べ終わったらすぐに帰ろうと思ってたのに、リュートさんと広川が魚に餌をやりに行ったせいで、何故だか香島さんと2人でカウンター席に並ばされている。
「夏木、何かあっただろう」
俺の頭をぽんぽん撫でて、烏龍茶を口に運ぶ。
香島さんが飲んでると、ただの烏龍茶でもまるでブランデーかウイスキーに見える。
この人、腹を立てるのも馬鹿らしくなるほど、オトナで格好良いよな…。
虚しい……。
こんな人が傍にいたら、年下でガキの俺なんか、頼ったってしょうがないって思われても仕方ないか。
「香島さん、1コ訊いていーっスか…?」
聞いたところで今更どうなるもんでもあるまい。
けど、やっぱり気になる。
年下扱いしか出来ないくらいの、歳の差ってやつ。
「リュートさんって、ぶっちゃけ何歳なんですか?」
「ん?聞いてないのか。32歳」
何でもない風に、香島さんは答えてくれる。
「…んだよ。別にそこまで離れてないじゃん…」
確かに若く見えるから、なんの前触れも無く言われたら驚くかもしんねーけど。
「一体幾つだと思ってたんだ?」
「…アラフォーとか、アラフィフとか」
くぐもった声を漏らすと、香島さんは乱暴に俺の頭をかき混ぜながら苦笑した。
「じゃあ俺は夏木に、50にもなって25歳に手を出してる変態オヤジだと思われてたのか。いくら皐月が可愛いって言っても、子供ほど離れてるヤツには流石に手は出さないぞ」
「そう言う香島さんは幾つなんスか?」
「俺は33」
「ふーん。リュートさんとは年子なんだ」
「いや、リュートとは従兄弟同士だぞ。聞いてないのか?」
「従兄弟…!?」
思わず、はぁ───と長い溜息を吐き出した。
聞いてない。
兄さんって呼んでるから、兄弟なんだと思ってた。
そう言えば、俺はリュートさんのことをなんにも知らない。
訊かないし訊かれないから、向こうも俺のプライベートなんかなんも知らないと思う。
ここに来ればいつでも逢えるから、リュートさんは俺の住んでるとこすら知らない。
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