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邪魔者[2]
「って、なんでもうスーツ脱いでんだよーっ!」
重い扉の向こう側、防音装備完璧の居住スペースで、夏木はすっかり部屋着に着替えて寛いでいた。
しかも、なんかかっこよさげな洋楽なんか聴きやがって。夏木のくせに生意気な!
「Tシャツにスウェットとか、有り得ん!」
「いつまでもスーツでいらんないだろ。シワんなるし」
「悠さんは部屋着でもオシャレで格好いいもん!」
「わ~るかったな、格好悪くて」
「かっこ悪くは…ないけど…」
前髪をかきあげて笑った顔がなんだかいつもの夏木じゃないみたいで、妙に緊張する。
「そんなことより!悠さんが1杯付き合えって。悠さんの奢りだってさ」
「あー、やめとく」
なにか短くメロディーが鳴って、夏木がベッドから立ち上がった。
レンジを開けて、中身を取り出す。
「これからリュートさんが作っといてくれた夕飯食べるんで」
テーブルに皿を並べてニカッと笑う。
「…んだよー、ラブラブかよー。夏木が素っ気なかったから心配したのにーっ」
「だって、見たか?カウンターに赤瀬さんと林君が居たぞ。あと、最近良く来る…何つったっけ?髪長い人と髭の人。俺、居心地悪すぎだろ」
赤瀬さんと林君、後の二人も皆リュートさん目当てのお客さんだ。
なるほど、納得…。
「俺も、悠さん狙ってるお客さんいた時、5秒で帰りたくなった」
「ああ、竜生君だろ。さっき普通に香島さんの隣に座ってたぞ」
「ええっ!?マジで!?」
竜生君ってのは、俺達の1コ下で、俺達よりも先にここに通っていた常連さん。
当然、悠さんとの付き合いもその分長い。
んでもって、俺より背が低くて可愛い中性的な顔をしているもんだから、悠さんも相手が自分を好きだって分かってるくせに、拒絶しないで甘えさせてる。
手を握らせたり、乾杯したり。
俺も、悠さんが断らないならって我慢してたけど、流石に目の前で悠さんのほっぺにチューされたときは、トイレに篭って泣いた。
「戻りたくねぇ……」
俯いて溜息を零すと、夏木が指でチョイチョイとダイニングテーブルの椅子を指差した。
「飲みもんぐらい出すから、避難してけば」
「友よ!!」
ぐおっと顔を上げ、空いてる席に座る。
「あ、そこリュートさんの席。拗ねるといけないから、広川はその隣に座って」
「おう!」
拗ねんのか…。リュートさん、可愛いなぁ。
隣の椅子に移ると、夏木が烏龍茶を出してくれた。
「1杯300円になります」
「うおっ、マジで!?高っ!」
「表より安いだろ。酒も飲む?缶ビール買ってあるけど」
「外に生あるのに缶ビール買うの?」
「当たり前。店のモンは店のモンなの」
夏木、意外としっかりしてんだな。
それともリュートさんがしっかりしてんのかな?
出してくれた缶ビール──いや、夏木、これは発泡酒だ──を開けて、乾杯する。
「ぷはーっ、仕事あがりの一杯うめー」
一気に半分ぐらい空けると、夏木が缶をテーブルに置きながら苦笑した。
「ゆっくり飲めよ。広川酔わしたら香島さんに叱られる」
「ビール一本ぐらいじゃ酔わねーよぉ~だ」
つまむ?と差し出してくれた、黄色い菊の花の入った春菊のお浸しに箸をつける。
ちょっと苦い。
「ほうれん草のがいいなぁ」
ボソリと呟くと、
「お子様」
ははっと笑って、夏木は俺の頭に手を伸ばした。
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