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凄い人

そうして互いの出したものを飲み込んで、リュートさんの仕舞いこんでたヌルヌルのゴムを使い切った頃……… 漸くお許しが出て解放された俺は、体力を回復させるためにベッドに転がって乱れる息を整えていた。 てーかこの人、ほんとに30代!? 体力、持久力半端無いんだけど……。 最後は透明になって流石に殆ど出なかったけど、結局何回イカせたんだろう。 出さないで中だけで何回もイッてたみたいだし、俺も途中から動くのに必死になってたから、カウントするのも4回目ぐらいで止めちゃったけど。 俺も、3回…4回? もう無理っつったら、上に乗って腰を振られてムリヤリ復活させられた。 そんなエロいことされたら、体力無くてもソコだけ元気になるわ! ………あれ?お仕置きしてたの俺だよね!? 俺、出なくなるまで全部絞り取られたんだけど!? リュートさんは今も余裕で、鼻歌歌いながら「なに飲む~?」なんて冷蔵庫を開けてる。 力は弱いくせに、なんでそんなに腰が強いの、この人は! それとも俺がひ弱なのか!? 「炭酸水、入ってたっけ?」 「えー?ワイン飲もうよ。お酒入れたら、もう一回くらいできちゃうかも」 「出来るかッ!」 冗談だったらしくて、くすくす笑う声が聞こえた。 「はい、炭酸水」 ペットボトルを俺に手渡すと、リュートさんはふと枕元に目を向けた。 「あ、スマホここに置きっぱなしだった。なにか光ってるし」 流石にワインは冗談だったんだろう。 スポーツドリンクのペットボトルに口を付けてから、スマホに手を伸ばす。 口の端から零れたドリンクを拭ってやるとその指先をやんわり咥えてからスマホを確認する。 そして、 「あっ!!」 驚いたように大きな声を上げた。 「どうしました?」 起き上がって、背中から抱きしめて座らせる。 「お店のこと、忘れてた…」 「えっ?香島さんに任せてきたんじゃないの?」 勝手にすっかりそう思ってたから、店に戻さなかったのに…… マズイ、俺、リュートさんの仕事の邪魔しちゃったじゃん。 「ごめん、リュートさん。すぐ戻らせてあげればよかった」 「あ、ううん。兄さんが全部閉めてってくれたみたいで。オーナーだから、店の合い鍵も持ってるし」 「でも、飲みモン作るのとかさ」 「ああ、それは大丈夫。兄さん、大学の時に僕と一緒にバーテンの仕事してたから。その頃は、僕よりも数段腕は上だったし」 数段上って、その頃よりは確かにリュートさんの腕は上がってるだろうけどさあ……。 あの人、出来ない事ねーのかよ! はあ───っと脱力して、リュートさんの肩に顔を押し付けた。 嬉しそうにふふっと笑うと、頭をふわふわと撫でてくれる。 「あのさー…、俺も心配してんですけど」 「なぁに?」 甘えるように頬をすり寄せてくる。 俺とおんなじように、今は俺だけなんだろうってのは分かってる。わかってる、けども…… 「あんなスゲー人とずっと一緒で、一度くらいは好きになったこと、とか…」 「すごい人?」 リュートさんが首を傾げる。 ……あれ?これマジで判ってないパターン? 「…いや、やっぱりいいです」 「すごい人って、……もしかして、兄さんのこと?」 ふと気付いたリュートさんが、静かな声でそう訊ねた。 いっ…!? こ、この感覚、なんか覚えてるぞ…。 この、背筋が凍りつくような、なにか途轍もなく恐ろしいことが起こる前触れ、のような……… 「功太。僕、兄さんのことは兄としか思っていないし、兄さん自体、僕の好みとはかけ離れているんだけど…」 「えっ、へっ、…へー。よかったあ。俺、香島さんと全然タイプ違うもんなあ!」 わざと明るく言って笑ったけれど、なんだかそれがカラ笑いに聞こえる不思議。 「リュートさんは、ほら、俺のことが好きなんだよね!」 「うん。大好きです」 待って!その言葉、もっと照れるか嬉しそうにするかして言って! 「だから、ね?功太……」 俺の顔を覗きこんでから、しなだれ掛かってくる。 うん、これね、普段ならもう「可愛い~っ」てなっちゃってるとこだと思うんだ。 なんで…なんでそれが、今日に限って怖いんだよ!? 「僕も、功太にお仕置きしちゃおう」 「あっ!」 飛び掛ってきたリュートさんを寸でで避けて、メール着信を知らせたスマホを引き寄せた。 「まってまって。これだけ確認させて」 リュートさんの口が不満げにとんがる。 やっぱり可愛いなぁ。 思わずぷっと笑いが零れた。 「あれ?広川からだ」 メールなんて珍しいな。いつもLimeで送ってくるのに。 怒ってる時なんかスタンプだけ3つくらいプンプンしてんの送られてくるし。 ベッドがギシギシと揺れる。 リュートさんが脚をばたつかせて、俺の意識が自分に戻るのを待っているらしい。 頭を抱き寄せて、片手でメールをチェックする。 「………え?」 メールの文面を思わず二度見した。 「なん…だ、コレ…?」 「どうしたの?」 リュートさんが心配そうに顔を見上げてくる。 「いや、だってコレ……」 「え……っ?」 そこにはたったの一言。 『お前と友達やめる』 とだけ、書かれていた。

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