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友達やめる
【夏木Side】
『お前と友達やめる』
広川から来たメールの文面に、俺たちは暫く固まった。
それから、
「どっ…どうしようっ、功太!? 僕が意地悪したからだ!」
「いっ…いや!俺も冷たくしたし!ほら、ベッドから下ろそうとしたり、椅子に座る時にもリュートさんの席だからって横にどけて…」
「だって、僕が邪魔にして追い出しちゃったんだよ!」
「いや、待って、電話してみるっ」
二人してアワアワしながら、電話帳から広川の名前を探して、発信を押した。
「───って、着拒されてっし!」
「えっ!?あ!Limeの方は!?」
「おーっ、Limeね、それなら………って着拒されてっし!」
「なっ…どっ、どうしよう!?皐月くん~~っ」
リュートさんが慌てて自分のスマホを弄り出す。
そうだな、リュートさんの電話が繋がれば……
「功太!僕、皐月くんのケー番知らなかった!」
「使えねえ~!」
思わず口から出た悪態にリュートさんがガン──とショックを受けた顔をした。
「ウソウソ、ごめんね。ほら、香島さんに電話してみるから、待ってて」
頭を撫でて抱き寄せて、スマホを握った手でスマホの通話を押す。
こっちは気が急いてるってのに、香島さんは10コール目でようやっと電話に出た。
『夏木か!? 相談したいことがある!』
しかも、自分のが切羽詰まったような声で用件も聞かずに話し出す。
『明日皐月のご実家に挨拶に行くんだが、服装はスーツで間違ってないか!?』
……なんだこの人は…。
いつもはエラく余裕な顔してんのに、何テンパってんだか……。
「スーツでいいと思いますけど……」
『色は?黒は…マズいな。紺か?グレーか?……はっ!グレーなんか持ってないぞ!?』
「黒でもいいんじゃないですかねー。ネクタイ明るめにするとかして」
『そうか…。すまんな、夏木。お前の時は俺が相談に乗るからな』
俺の時は、って、リュートさんのご両親は……あ!そうか。代わりに育ての親の香島さんの親御さんトコに行かなきゃなんないのか。
「はい。その際はよろしくお願いします」
『ああ。じゃあ俺は明日の用意があるから、またな。おやすみ』
「はい、おやすみなさい」
スマホを切って、見上げてきたリュートさんの頬に軽くキスを落とす。
「明日さ、香島さんとうとう広川の実家に挨拶行くんだって」
「そうなんだ!…でも、その…それはいいんだけど、功太…?皐月くんの、友達やめるの件は……?」
「ああっ!忘れてた!」
すっかり香島さんのペースに乗せられて、大切なことを忘れ去ってた。
「あっちが何も言ってこなかったってことは……兄さんは何も知らないかもしれない」
「えっ?と…、じゃあ、相談すれば力になってくれる?」
「うん。でも…」
リュートさんは口元へ手をやって、難しい顔で考え事をする。
「今の兄さんは、役に立たない」
な…、なんて言われようだ!!
でも、子供の頃から共に育ったリュートさんの言うことだ。
今の香島さんには相談するだけ無駄ということだろう。
「明日も多分、失敗しても成功しても、役に立たない」
失敗すれば挽回するための工作に走り出すから捕まらなくなる、成功すれば皐月くんとイチャイチャするのに忙しいだろうし、と言うリュートさんの意見に反論する術もなく……
「……明後日にしようか…」
ぼすん、とベッドに横たわった。
「うん…」
リュートさんも同意して、隣に寝転ぶと胸元に顔をすり寄せてくる。
「休憩したら、シャワーしよう」
「うん…」
元気、ないな…。
そりゃあ、元気になんてなれないだろう。
弟みたいに可愛がってる広川から、俺が友達やめようなんて言われて……。
きっとこの人は、自分の所為だって感じて罪悪感に苛まれてる。
違うよ。貴方の所為じゃない。
多分、俺の所為だ───
抱き締めて頭を撫でると、背中に回ってきた手にきゅっと力が篭った。
「大丈夫」
確証も自信もないけど、安心させたくてそう囁く。
それでも少なくとも、
「広川はリュートさんのことが好きだから…大丈夫」
それだけは変わらないと、俺は確信を持って、リュートさんをギュッと抱き締めたのだった。
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