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友達をやめる理由[3]
【悠Side】
夏木は生意気にも難しい顔をして、顎に当てていた手を頭に上げると、髪をくしゃりと掻き上げた。
「広川。俺が広川のこと好きだったって、誰かから聞いた?」
皐月は言葉は出さずに、俺の顔を見上げた。
答えて構わないと頷いてみせると、夏木に向けてコクンと頷く。
「リュートさんがそれ気にして、お前のこと牽制してるとか、ヘタしたら嫌いになったとか」
「っ…嫌いになんてならない!」
驚いて訂正したリュートを視線で抑えこむ。
今は、夏木の回答中だ。
「あのな、広川。リュートさんは基本、ヤキモチ焼きだ。お前だけじゃない。香島さんにすら俺の事を取られるんじゃないかって心配したぐらいなんだ。お前のは、それにオプションが付いたくらいなもんなんだよ。
だから、完全に信用されないのは、俺の努力不足。
ノンケのお前が俺のことを友達としか思ってないってことは分かってるし、香島さんのこと知った段階でフラレたもんだと思ってとっくに諦めてる。
ちゃんとスッパリ吹っ切った上でリュートさんと付き合ってんだよ」
夏木の陰でリュートが縮こまる。
皐月は2人の様子を見て、納得したのかしていないのか、ただ理解はしたようでコクリと頷く。
「……でも、それで納得してるのは夏木だけだろ」
……納得は、していないらしい。
皐月は素直だが意外と頑固で、そんなところも可愛いと思っているが…。
今はそれを見て微笑む状況でもない。
「結局、リュートさんが嫌な気持ちになってるじゃん。俺、リュートさん好きだもん。俺が居て嫌な気分にさせるなら、俺は居ない方がいいだろ」
究極論か。0か100、どちらかを選ぶならゼロを選べ、と。
それは出逢ったことすら否定する行為だと、何故分からない?皐月。
「───僕は、皐月くんが好きだ!」
俺が留めてからずっと声を発さずにいたリュートが、突然大声を上げた。
皐月の胸をドン!と叩く。
他の奴ならば皐月に手が届く前に止めている。
しかし相手はリュートだ。
相変わらず……力が弱い。
皐月も痛みなど感じなかったようで、しかし驚きはしたようで目を丸くしてリュートを見つめた。
「僕は皐月くんが好きだよ!」
今一度繰り返す。
「だから、傷付いても一緒に居る。ヤキモチ焼いても嫌いにならない。僕は大人だから、大人は卑怯だから、恋愛も友情も、どっちも大事だからどっちも取る!」
皐月に向けて言い切ったリュートは、俺に視線を流すと真正面から睨みつけるように見つめてきた。
「みっともなく縋り付いてでも手放したくない。それ程に大事だから僕は、みっともなく足掻くんだ」
そして、答えを見つけた弟は、どうだと言わんばかりに満足気に微笑んだ。
「それでいいんでしょう?兄さん」
あの時───リュートが夏木に捨てられそうになっていた時に俺が伝えたかった言葉の意味が、時を経て理解を得た。
「───結局」
皐月の頭をぽすんと撫でて。当事者ではない俺が締めることになるのだろう。
「リュートは焼くし、夏木は構ってくれないと皐月は拗ねる、俺が慰める。変わらないまま、友達でいいのか?」
「嫌だって言っても、僕は皐月くんを構うから!ここに来ないんだったら、そっちに乗り込んで行く」
「無視しても会社でガンガン話しかけるからな」
皐月が答えるのも待たずに、2人が宣言してくる。
皐月は俯いたまま俺の袖を握る手にぎゅっと力を込めて、肩を小刻みに震わせて………
「これからもよろしくお願いします───っ」
水分を含んだ声で、更に深く頭を下げた。
「皐月くん…っ!」
堪え切れない様子でリュートが皐月を抱きしめる。
夏木は俺とリュートの手前、一瞬上がった右手を自らの頭に持って行き、だが安心したように息を吐きだした。
「よし、夏木は出かける用意をしてティッシュを持って来い。皐月とリュートが泣き終わったら、飯食いに行くぞ。気を遣ったら腹が減った」
「って!ホントに気ィ遣ってくれてました!?」
一番気を張っていたであろう男は、俺の言葉を受けると情けない声を出してその場に崩れ落ちた。
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