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さっちんとミキ[3]

【悠Side】 ソファーに深く腰掛け、コーヒーカップに手を伸ばす。───と、皐月が腕に掴まってきた。 「んで、なんと悠さんは、俺の恋人なんだぞ。すっごいだろー。こんなにカッコイイのに、俺の事好きでいてくれるんだ!」 目の前で夏木がブハッとアイスコーヒーを吹き出しそうになる。 「あー…、皐月…?」 嬉しそうに、誇らしげに、少し恥ずかしそうに頬を赤く染めて笑っている皐月に、4人の視線が集中する。 いや、そんな表情も可愛いが、外で、不特定多数の人間に目撃されるような場所でその顔をするのは……いやいやいや、そうじゃない。 「皐月、それは…彼女に伝えてもいいことなのか?」 高校の同級生だと言うミキにその事を暴露されれば、他の地元の知り合いに知れ渡ってしまうことにならないだろうか。 皐月はカミングアウトしていないんだ。それどころか、本当の意味での同性愛者ではない。 しかしこちらの心配を余所に、皐月は「あっ、そーだった」と暢気に笑う。 「でもでもっ、ミキなら平気。人の困るような事はしないから。信用していいよ」 相当信頼を置いているのか、それとも誰でも信用してしまう皐月の純粋さ故なのか。 「…いや、信じてくれていっすよ」 はぁー、と溜息を吐くとミキは、バレたくないならおいそれと口滑らせんなよなー…、と小さく零した。 「あたし、1回さっちんにガチで叱られて以来、マジ悪いこと出来ないんですよ」 「皐月に?」 「あっ、お前!バラすな!」 「これはマジ悪いことじゃないからいいんですーっ」 興味津々で乗り出すと、皐月が怒ったように背中をドン、と叩いた。 それから逃れる勢いのままに立ち上がって、ミキにソファー席を勧める。 「やはり座って行きなさい。皐月の高校時代の話を聴かせてもらいたい」 「え…えー、どうしようかなぁ…」 懸命に、帰れ帰れと合図を送る皐月に躊躇するミキの肩を押して強引に座らせると、逃がさないようにその隣に腰を下ろした。 「あー、ヤバいコレ、皆に怒られるパターンのやつだー…。美形リアルBLゴチです的な…」 最後の呟きは小さくて聞き取れなかったが、特に嫌がっている訳でもあるまい。 その証拠にミキは、髪を数回指に巻き付けると、覚悟を決めたように、 「じゃあ、ちょっとだけおじゃまします」 頭をペコリと下げた。 「…で、先にあれなんですけど、お兄さん」 と言って、俺の顔を見上げてくる。 「さっちんのこと思ってバラしたくないんなら、過度なスキンシップとか言動とか表情とかね、なんか(すべ)て隠した方がいいと思うんですけど」 言われたことがピンと来ずに皐月を見やると、あちらも理解できていない様子で首を傾げる。 「いやいや、普通男同士の友達って顔とか耳とか触んないですから。頭でギリ」 「そう…なのか?」 「どうだったろう?」 リュートもまあ、平凡な学生時代とはいかなかったからな。訊いてもたいした答えは返ってこない。 「…まあ、そうですね。俺、広川の耳とか触ったことないし。香島さんにもベタベタ触んないっスよ」 「そうだな…確かに。ありがとうな、三木。これからは気を付ける」 頭を撫でようとして、思い留まる。 「いや、三木は女だからアリか?」 「アリナシで言ったらナシだと思いますよ。さっちんのほっぺ膨らんでますから」 だから他の人間は可愛がんない方がいいんじゃないですかー?と付け加え、ミキは皐月の肩を「怒んな怒んな」とポンポン叩く。 「じゃあ高校時代のさっちんの話、行きますか」 「あ、待って」 小さく手を上げて発言した夏木に、思わず鋭い視線を浴びせてしまう。 早く俺の知らない皐月の話を聞きたいんだ。 その思いを嗅ぎとったのだろう。夏木はすいませんと掌を立ててから、隣のリュートの手を握った。 「別に三木さん的にどうでもいいかも知れないけど、俺とリュートさんも付き合ってるんだ。ね、リュートさん」 夏木に振られて、リュートは対外用ではない、はにかむような笑顔をそっと零した。 「うほっ、どっちが受けスか!?やっぱ美人受け!?美人脱いだら意外やぶっといえげつないの付いててドSの攻めだった的展開もアリっすよね!!」 「えっ?何語?」 「えっ、待て待て!なにリュートさんにぶっといえげつないの付いてるとか!?」 「こら、皐月。卑猥な言葉を使うんじゃありません」 目を丸める年少組と言葉を失って固まるリュートの姿に、ミキは興奮しきりだった顔をしまったとばかりに顰め、視線を逸らして乾いた笑いを漏らす。 「いや…すみません。忘れてください……」 「リュートが受けだよ」 なんとか誤魔化そうとするミキにこっそり教えると、「やっぱりーっ、やばーいっ」と小さな声で叫びガッツポーズをした。 うちの会社は『コンセプトカフェ』と言う(たぐい)の店にも投資しているから、そう言った知識もそれなりに会得している。 ミキは、腐女子なのだろう。 子供時代はそうでもないが、20代半ばにもなれば自らが腐であることをあまり外には出さなくなると言う。 お仲間以外に広まることはないだろう、と信用半分だったバラさないという宣言に、安心という結論を下した。 「でも、さっちん元々そっちの人じゃないんだよね?高校の頃…は……」 重要なことを言いかけたミキを、皐月が腕を揺すぶって止める。 …前言撤回だ。この娘は、ポロッと口から隠し事を零しかねない。

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