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さっちんとミキ[4]
話し出しで皐月に止められた言葉。
「高校の頃は?」
先を急かせると、ミキは困った様に皐月を振り仰ぐ。
「い……、いやぁ? ……やっぱ言わない方がいいのかな?」
「良いに決まってんだろ」
皐月はどうやらご立腹だ。
きっと、それは───
「昔の恋人の話か?」
「そうそう、それなんですけど、さっちん普通に女の子と付き合ってましたけど」
「ミキ!!」
「だって、元々ノンケのさっちんが女子と付き合ってたとか、普通じゃない?」
「ふうん……。どんな子だったの?」
ミキ越しに、今にも泣き出しそうな皐月の顔が見えた。
思わず髪を撫でながら抱きしめてやりたくなったが、そうする訳にもいかずリュートに視線を送る。
頷いたリュートは腰を上げて、正面の皐月の頭を代わりに撫でた。
「顔は可愛いけど、性格は……ちょっと困った子でしたねぇ」
ミキは皐月から目を逸らして、昔を思い出しながら語る。
「お恥ずかしい話、……って言うか、あたし昔やっちゃなんない罪を犯しまして」
「クスリか?」
「強盗?」
「まさか殺人…!?」
「いや! それ全部本気でマズイやつ!」
そこまででは無い、やってはならない罪───
「いじめか?」
「ビンゴです」
ミキは過去を悔いる表情を宿し、しばしの間頭を垂れた。
「……良くある、……いや、あっちゃなんないんですけど、仲間内の一人と好きな相手が被ったとか言う原因で始まって……。
勿論リンチとか、トイレに閉じ込めて水かけるとか、無視するとか、そう言う激しいのは無かったです。ただ、因縁つけていたぶる類の軽いやつを、……いや、いじめに軽いも重いも無いですよね」
これだけ反省をしている人間を更に責め立て追い詰める趣味はない。
静かに頷いて、先を促した。
「そんな時、その子とさっちんが付き合い出したんです。それでさっちん、あたし達に───」
───今日から蓮見は俺の彼女だから、文句があるなら俺に言ってこいよな!
そう言って皐月は、彼女を守ったと言う。
「でもね、それでいじめが止んだらアイツ、とっとと さっちんフッて、元々好きだったサッカー部のイケメンと付き合ったんですよ! 許せないでしょー!?
……だからってあたし達、もういじめたりとかしなかったけど。利用されたさっちんが……可哀想だったから」
目の前の席で、夏木とリュートが目を潤ませている。
ますます皐月を抱きしめたくなって、俺はそれを堪えるために胸の前で腕を組まなくてはいけなかった。
「いや、それは今だからぶっちゃけるケドさ」
皐月が気まずそうに口を開く。
「いじめとか、見てらんなかったから……、付き合うフリしようって、俺から提案したんだよ」
「……はぁっ!? さっちんどんだけイイ子ちゃんなの!?」
「っ…イイ子ちゃんじゃねーよ、別に……」
皐月は顔を赤くして訂正すると、窓の方へ顔を背けてしまう。
「まあその後、同情票か、さっちんの人気が上がって、他のクラスの女子と付き合ってたみたいですけどね。こっちはリアル?」
「……うるさいっ!」
本格的に拗ねられると困るので、ミキに前に出てもらってから手を伸ばし、皐月の頭を軽く撫でてやる。
「……あのっ、俺、ちゃんと悠さん一筋だからっ」
泣きそうな顔で焦っている皐月の表情に、胸が一杯になった。
「わかってるよ……」
今すぐに抱きしめて笑顔に変えてやりたい。
それには間に居るミキが邪魔で、更にこんな公共の場ではそれも叶わない。
やはり赤瀬さんの店に行くべきだったか。……いや、あそこも店長がゲイというだけで、なにも専用のレストランな訳ではない。
早く食事を終えよう。
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