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さっちんとミキ[5]

【悠Side】 「この面子だから、あたしも更にぶっちゃけるけどさあ、さっちん」 すっかり冷めたコーヒーを飲み干そうとカップを手に取ったと同時に、ミキが更に続けた。 皐月の話か? やはり知らない若い頃の皐月の話とくれば、聞きたくならない訳がない。 「いじめの首謀者って奴はさ、確かにサッカー部のイケメンが好きだったんだけど、あたしはどっちかってーと、…あんなチャラいの好きな蓮見に腹が立ってたんだ」 「んー?前は友達だったのか?」 その言葉で俺達は、それと悟った。 皐月は考えが及ばなかったようで、見当違いな質問をする。 「ううん。…あたしもね、そちらの御三方と……同じ、なんだ。イケメンは見る専で好きなんだけどね。ほら、男の子がスポーツ選手とか好きなのと似た感覚で。アイドルの女の子好きな女みたいな」 「ん……?」 「ん?って…。ちょっと、さっちん?理解出来てる?」 「……あ!わかった!女の子好きなのな!同じってことは男が好きで…ミキは女だし、なにがどう?とか考えちゃったじゃん」 ようやく察した皐月に、ミキは大きくブハッと吹き出した。 「ヤッバ、なにそれさっちん頭ニブっ、おばか丸出しっ」 「うっ…うるさいなぁ、もっと分かりやすく言えよ!大体お前なあ」 皐月は拗ねた表情を瞬時に真剣なものへと変え、指先をミキの鼻先に突き付ける。 「人のこと傷付けたらいけないんだぞ!」 「えっ?…あ、…はい」 突然の説教に、ミキは度肝を抜かれたようでおとなしく頷き返す。 「特に、好きな人の事なら尚更だ」 「えっと…さっちん…?」 もう過去のことだ。今はしない、とミキは伝えたいんだろう。 しかし皐月の意外な迫力に、タジタジとするばかり。 「好きな人を傷つければ、その人だけじゃなく、自分も悲しいだろ。それだけで2人も同時に傷ついてんだぞ。いじめて楽しいことは?なんか得すんの?はい!」 「…いや、…無い…かなあ……」 「無いならしない!有ってもしない!自分の心を傷つけてまですることじゃないだろ。もっと好きな人を、自分も含めて大切にしなさい」 「はい。……つか、ヤッバい。超せいちゃん変わってないんだけど!」 たじろいでいた筈のミキが、突然可笑しそうに笑い出した。 一瞬きょとんとしてから、皐月は不服そうに頬を膨らませる。 「なんだよ、せいちゃんって!」 「あれ?知らなかった?高校の頃、さっちん一部から『せいちゃん』って呼ばれてたんだよ。キレイ事、正論ばっか言うからって」 「なんだよそれ、ひどいっ!」 傷ついた顔をして、ミキに食って掛かる。 ミキは、悪い悪い、と到底悪い等と思っていない顔で言葉だけ謝罪をすると、 「でもさ」 郷愁を湛えた目をして、小さく笑った。 「鬱陶しがってる奴らもいたけどさ、あたし達はせいちゃん───キラキラ輝いて見えて、嫌いじゃなかったよ」 ───ああ……… それが、皐月の高校時代なのか……… 目を閉じて、少し幼い皐月を思い浮かべてみる。 真っ直ぐで、人懐こくて、笑顔の可愛い…… いや、やはり危ないだろう。 そんな可愛すぎる皐月が、他の男共と体育の着替えが一緒だとか、プールの授業を共に受けるだとか。 「皐月は変な男に目を付けられてはいなかったか?」 心配が過ぎてミキに訊ねると、彼女は手を顔の前で振って楽しそうに笑った。 「いやいや、どうでしたっけねー」

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