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実家にて[1]
「申し訳ありませんでした」
母さんに迎えられて、父さんの待つ居間の入口に着いた途端、悠さんは廊下の冷たい床に手を付けて頭を下げた。
その姿に、思わず固まってしまう。
「本日はお時間を作って頂きありがとうございます。だと言うのに、私事で一方的に時間を変えさせてしまい、申し訳ありませんでした」
「え…、だって、それは…」
頭を下げたままの悠さんが、理由を話そうとした俺を手で制してくる。
「私事と言うのは?」
っ…なんだよ、父さん。すげー感じ悪い。
悠さんが頭下げてんのに、難しい顔して。
「言い訳をする気はありません」
「言えないような理由なのか?」
「いえ」
悠さんは少し考えるように顔を伏せて、それからグッと拳に力を込めた。
「昨日皐月さんが友人と喧嘩をしてしまい、仲直りのために独断で友人宅へ連れて行きました。その友人と言うのも、私の従弟とその恋人です。全ては、昨夜の内に気付けなかった私に落ち度があります」
「そうか。───では、話を聞こうか。部屋へ入りなさい」
「はい。有難うございます」
立ち上がった悠さんの後に続いて居間に入る。
畳に座ろうとした悠さんに、母さんが座布団を差し出す。
悠さんはお礼を言うと、父さんの斜め前に座った。
俺は腹が立ってるから、母さんが父さんの前に置いてくれた座布団を悠さんの逆側の隣に移して座る。
「皐月?」
母さんが可笑しそうに声を立てて笑った。
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夕飯に誘われたから、母さんの手伝いにとお勝手に立った。
「皐月が進んでお手伝いするようになるなんて、悠さんに感謝しなくちゃね」
なんて、母さんは始終ご機嫌だ。悠さんのことを気に入ってくれたらしい。
そして、あんなに感じの悪かった父さんも……
「ああ、ここですね」
「さすがにすぐに分かるか。これは初級入門編だからな。じゃあ、今度はこれだ」
2人で何見てるんだろう?
すごく楽しそうだけど。
「分かりました。テニス部のここです」
ん?テニス部…?
「なんだよ、皐月に聞いた?中学生の時の部活」
「いえ。愛のなせる技です」
「言うねー。じゃあ、最終問題。小学校、上級編だ」
「って、ちょっと待て待て!」
サラダの器を持って居間へ駆け込む。
案の定、2人は俺の卒業アルバムを持ち出して、俺を探すクイズをしていた。
「父さん!勝手に悠さんに見せんなよな!」
「あ、居ました。飼育委員のここに」
「あーっ、クソ。全問正解かあ」
「ええ、任せてください。それにしても皐月は、子供の頃から可愛いんですねえ」
「なんなら、赤ん坊の頃のアルバムから見るか?」
「いいんですか?是非!」
「人の話を聞けーっ!!」
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