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実家にて[2]
父さんが夕飯を食べながら、悠さんのお土産のお酒を一緒に飲もうとか言い出したせいで車で帰れなくなって、結局実家に泊まることになった。
本当は悠さんと一緒にお風呂に入りたかったんだけど、「お義父さんと入っておいで」って耳打ちされて、仕方なく父さんの背中を流してる。
「しかしなあ…、本当にお前を嫁にやることになるとはなー」
「本当ってなんだよ…」
嫁にやるって言い方は分からないことないけど、本当にって、それ冗談でも「将来嫁にやるかも」って思ってたってことじゃないか。
そう文句を言うと父さんは、「母さんが言ってたんだよ」と苦笑した。
「お前はさあ、中高の頃、うちに良く男友達連れて来てたんだろ?」
「男なんだから、普通じゃん」
「いや、それな、俺も言ったんだけど。皐月はそんな気無いだろうけど、友達の中には何人か恋心を抱いて皐月を見てる子が居るって母さんがな」
「はあ!?居るわけ無いじゃん!」
「いや、だから母さんがって。俺に否定するなよ」
後で母さんにちゃんと否定しておかなきゃ!
父さんが湯船に入るのを待って、俺も自分の体を洗う。
「んで?」
「いつか皐月が男の恋人を連れてきても、男だからって拒絶するのはやめよう。きちんと人となりを見て判断してあげよう。って言われてな。…話半分に聞いてたんだけどな」
真逆それが本当になるとはな……、と息を吐き出しながら、父さんは湯船から立ち上がった。
相変わらずカラスの行水。
だけどそのお陰で、体を洗い終わってすぐにお湯に浸かることが出来る。
結婚したい人を紹介したい。女の人じゃないんだけど───そう電話で告げたとき、母さんの声が落ち着いて聞こえたのは、気のせいじゃなかったんだな……。
「…ねえ、父さん」
お風呂を出ようとする父さんの背中に呼びかける。
「なんだ?」
父さんは立ち止まり、わざわざ振り返ってくれる。
「俺、もし悠さんと無理やり別れさせられたとしても、だからって女の人と付き合おうとか思えないよ。本当は、男同士だからって理由で反対されたらどうしようって、不安だったんだ」
人を好きだという気持ちは尊いもの。だから、それが同性同士であっても人種が違うものであっても素敵なことなんだと、教えてくれたのは母さんだった。
でも、いざそれが自分の息子のこととなれば、他人事ではない。否定の気持ちが湧き上がってしまうかもしれないと…、不安な思いも少しは有った。
だからこそ───
「父さんと母さんが反対しないでくれて本当によかった。俺の幸せを願ってくれて……ありがとう」
面と向かって告げる感謝の言葉は少し恥ずかしくて、顔を湯船に沈めて隠れてみる。
「……まあ、お前は大切な一人息子だからな」
ボソリと呟くと、父さんは乱暴にドアを閉めて、脱衣所へと消えていった。
ブクブクと息を吐きだして、苦しくなって顔を出す。
「悠さん…よかった……悠さん…」
えへへ、と笑ったはずなのに、何故だか涙がぽろりと零れた。
早く悠さんに会いたくて、抱き締めてもらいたくて、俺はまだ温まりきっていない体のまま湯船から立ち上がっていた。
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