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喧嘩[1]

そろそろ寝ようかって時間になって、解散となった。 悠さんの腕に掴まりながら、書庫兼クローゼット化してた元俺の部屋に案内する。 部屋の中はすっかり本と、父さんと母さんの洋服だらけになってたけど、ばっちりお掃除しておいたからって母さんの言葉通り、ベッドも綺麗にメイキングされていた。 ベッドに寝転んだ悠さんの上に被さるようにうつ伏せる。 「俺のベッドじゃ狭くない?」 答えが来る前に目を閉じて、唇を重ねた。 普通のシングルベッドだから、悠さんの上下には僅かな余裕しか無い。 幅はまあ、いつもよりもっとくっついて寝られるから逆に嬉しいけど。 でも悠さん、俺に遠慮して身体が痛くなっちゃいそうだな。 「皐月…」 熱を持ってきたソコを悠さんのお腹に擦りつけながらキスを繰り返していると、苦笑混じりに名前を呼ばれて、ベッドにころんと下ろされた。 「もう寝るよ」 腕枕をして抱き寄せて、おでこに「おやすみ」って優しいキス。 「……まさか、このまま寝るつもりじゃあ…」 俺の、すっかり勃ち上がってるし! 悠さんのだって、反応しておっきくなってきてるじゃん! 「ん……ほら、硬くなってる。…んっ」 裾の足りないパジャマのズボンをパンツごとずらして、舌で濡らしてから咥え込む。 ふんわりと、いつもと違う実家のボディウォッシュの匂いが香る。母さんの好きなイチゴの香り。 「こら、皐月」 頭を押さえてきた悠さんの顔を、口を離さないままに見つめ返す。 「…んぅ?」 あ…、筋まで硬くなった…。 うれしい。 「なに可愛い顔してるんだよ。…たく、エロい子だな。放しなさい」 「ひもひいい?」 「気持ちいいけど、おしまい。明日、家でしような」 「ああっ、ずるい。今シたいーっ。悠さん…もっとぉ」 「わざと可愛い言い方するな。煽られてるって分かっていても、おじさんはノセられちゃうんだから」 「ノセられてないじゃんかぁっ」 巨大化したまんまの熱を隠すように、そそくさとパンツとズボンを上げてしまう。 うぅ~っ、めちゃくちゃ疼いてんのに、このまま俺のこと放置するつもりだな! 俺は放置プレイとか望んでないし、全然嬉しくないのに…。 「…いいもん。自分で慰めるもん。俺かわいそ」 「跳ばすなよ」 「うるさいなぁっもう!」 どうせさぁ、悠さんは「おっさんだから」とか言い訳ばっかして、俺が欲しいって思ってるほど俺のこと求めてないんだろー。 体力面とか、耐久面とか、そういうトコは年齢的にしょーが無いのかもしんないけどさ。 それに、明後日は仕事だし…、仕事の前の日はあんまりガンガン突いてくんないくせに。 「もういーよーっだ。折角しあわせだったのに、しょんぼりだよ」 そう高くないベッドからゴロンと転がり落ちて、床に横たわる。 「皐月、痛くなかったか?」 「心しか痛くないです」 戻っておいで、と手を差し出された。 あぁ…こうしてセックスレスになって、夫婦はすれ違っていくのか。 年齢差って、こういうトコにも影響してくるんだな。 「肌がけ1枚ちょうだい」 手は掴み返さずに、反対に自分からも手を伸ばす。 「皐月…」 フッ…と悠さんが笑う声が聞こえた。 わざわざベッドから下りた悠さんに体を引っ張り起こされて、抱き竦められてしまう。 「またお前は、余計なことを考えていただろう?」 「余計なことなんて考えてない」 「ほら、仲直りのキスは?」 「…仲直りなんてしてないじゃん」 ごめんなさいもされてないのに、悠さんは勝手に俺にキスしてくる。 「もう…悠さんがシたい時だけ勝手にすればいいよ。俺、もう、求めてなんてやんないから」 「それでいいのか?」 「だって……俺ばっかガッついてるもん。俺ばっか、好きなんだもん」 だからもう知んないよ、と半ばキレ気味に伝えると、悠さんの、俺を抱きしめる腕にぎゅーっと力が篭った。 苦しいし……。 身体も苦しけりゃ、胸も苦しいし…。 「なら、明日早くにお暇して、昼間から夜までずっと、皐月を抱いていようかな」 「…うそだ。悠さんおっさんだから、もうそんな体力無いもん」 「フッ、言ったな。中年の底力を舐めるなよ」 「舐めてないよ。もういいから、肌がけください」 目からぽろりと零れた涙が、パジャマの布に吸い込まれてく。 いつもの悠さんの匂いと違って、なんかやだ。 「……皐月、今夜は別に寝るか」 「……っ!?」 な…んだよソレ、なんだよもうっ! 「もういーよ!勝手にしろばかっ」 ドン───と身体を突き飛ばして、部屋を飛び出した。 だって、意味がわかんない。 俺のこと好きで、俺と一緒になりたくて、それで実家まで挨拶に来てくれたんだろ? それなのになんで、別に寝るか、なんて言うんだよ…? 昨夜だって、ローズでは「帰ってから」って言ったくせに、全然忘れて寝ちゃってるし。 毎週金曜と土曜はイチャイチャの日じゃん。 どっちも無視しておいて、俺に出て行けなんて……あんまりだ!

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