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喧嘩[2]
廊下に出て、正面の襖に呼びかける。
うちは2LDKだから、もう片っぽの部屋は両親の寝室だ。
「おう、どうした?」
中から襖を開けてくれた父さんが、俺の涙を見て目を見開いた。
「あらあら皐月、悠さんと喧嘩でもしたの?」
母さんが布団から起き上がって、頭を撫でてくれた。
中高の頃はやられたら怒っていたような行為に、今はなんだか益々泣けてきてしまう。
「悠さんが、今夜は別に寝るか、って」
酷いことを言われたんだって訴えてるのに、
「おっ、悠のヤツ、そう来たか」
父さんは何故だがニヤリと笑う。
ほんと感じ悪い。
「なにそれ?」
思わず睨みつけてしまうと、おお恐い、なんて言ってからかってくる。
「お父さん。泣いてる息子になんですか」
「いや、悪い悪い」
母さんに窘められて謝っただけで、全然悪いなんて思ってない態度だ。
その証拠に、ずっとニヤニヤしたまんまだ。
「皐月お前、悠になんかしたか?」
「は!?なんかって?」
「狭いベッドに2人で、なんかして煽ったんじゃねーの?お前」
煽った……?
そりゃあ、今日は土曜だもん。煽ったさ!
上乗ってキスして、ち〇こちゅーちゅーして、ヤる気満々だったさ!
でもまさかそんなことを言えるわけもなく、目を逸らして口を閉ざしていると、
「おっ前なぁ?恋人の実家で親がいて、背徳的なシチュエーション用意されて、燃えない男がいると思ってんのか!なんだよ、悠は枯れてんのか?」
頭をごちんと小突かれ…いや、殴られた。
「何下品なことを言ってるの!もう、お父さんは!」
そうだそうだ。母さんもっと言ってやれ!
「いや、だってさ、美雪…、そんなところに、このエロガキが…」
「皐月はエロくありません!この子は純粋で、自分からどうこうする子じゃないんです」
母さんにそう言い切られて、なんだか…申し訳ない気持ちが溢れだす。
お母さん、ごめんなさい。
俺は貴女が思うほど、純粋でフェアリーな男じゃないんです……。
「だ…だって……だからって、なんで追い出すんだよ」
「俺が悠に、本番禁止、つったからな」
「父さんの所為かよ!」
「あ?なんだよ、文句か?だって嫌じゃねーか。隣の部屋で息子が抱かれてるとか。お前の喘ぎ声聞こえてきたりしたら、母さんきっと気まずいぞ~。親の見るより息子がヤラれてんの見る方がキツイって」
「うっ…うるさいな!もうっ!」
「つか、俺が禁止しなくても、悠は充分大人だろ。そのくらい、弁えてるんじゃないのか」
「あー!そうですね!」
父さんのばかっ!
悠さんもばか!
そんなの…初めっからそう説明すればいいじゃん……。
───でも、それを理解できなかった俺が、一番ばかだ………。
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