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喧嘩[3]
「どうする、皐月?お母さんと一緒に寝る?」
母さんが声をかけてくれる。
「いつまで甘えてんだよ、ばーか。さっさと戻れ。美雪と一緒に寝るのは父さんだ」
なんだこの人は!?
「いいよ、もう。おやすみ、母さん」
母さんはもう一回、俺の頭を撫でてくれた。
子供にとっては幾つになっても、母さんは母さんなんだな……。
そんで、50歳過ぎたところで、父さんは若い頃と変わらない。ガキだ。
そんで、この人の息子の俺も、きっとまだガキのままなんだ───
人のふり見て我が振り直せ。
反面教師。
そんな言葉が頭をよぎるけど……
部屋を出て、昔の俺の部屋とは全く違う方向、お勝手へと向かう。
水でも飲んで一息ついたら、居間に行って寝ようかな。あそこなら座布団あるし、畳だから痛くない。
…あ、ダイニング電気付いたまんまじゃん。母さんうっかりして───
「っ───」
中を覗きこんで、ビクッと身体が震えた。
「……っ、ビビッたぁ……」
人が居るとか思わないし!
「なんでこんなトコにいんだよぉ」
その場でしゃがみこむと、ダイニングの椅子に腰掛けてた悠さんが、立ち上がった。
もう、意味わからん。
なんで夜中にウロウロしてんだ、この人。
探検か!?探検でもしてたのか!!
「やっぱり、こっちに来たか」
なんだよ。俺の行動なんてお見通しってこと?
「父さんに追い出されたんです。もし悠さんがこっちで寝るなら、俺が部屋に戻るけど」
俺と一緒に寝たくないんだろう?
そう思いながら見つめると、悠さんは俺を見つめ返して、フッと息を漏らした。
「俺はいつも、言葉足らずだよな。ごめんな、皐月」
「………別に…平気…」
素直に謝られると、なんでか文句も言えなくなる。
全然平気じゃなかったけど、理由を知っちゃうと、俺も悪かったかなって、思うし…。
「じゃあ、また明日。おやすみなさい」
水も飲まないで、そのまま部屋を出る。
───と、
ダイニングの灯りが消えて、真っ暗になった廊下の上。
「───っ!!」
背中からふわりと、抱き締められていた。
振り返って、抱きつきたい。
でも、また煽ってるって思われたら…
自分からは求めないって言ったくせに嘘ばっかり、って思われたら……
「あの……なんですか…?」
「ごめんな、皐月」
頭にスリッて頬擦りされる。
「一緒に部屋に戻ろう」
体をくるりと回転させられて、前からギュッと抱き直された。
「ご両親の隣の部屋で、何かするわけにはいかないだろう?
なのにお前は可愛いし、俺は自分の忍耐力に自信がない。だから、別々の場所で寝れば問題無いと、そう思ったんだけどな…」
「好きじゃない…わけじゃないの?俺のこと、欲しいって思ってないんじゃ…」
俺が見上げて、口を結ぶのを待って、悠さんは抱き締める腕に力を込めて頭におでこをコツンと当ててきた。
「好きだよ。好きすぎて、大切すぎて、どうしたら心を幸せで満たしてやれるのか───ずっと考えているのに…。俺はお前を、泣かせてばかりだな」
背中に手を回して、ぎゅーっと掴まえる。
「皐月。襖の和室はな、厚いドアの洋室よりも音を通しやすいんだよ」
「だから、出来ないってこと?……だったら、初めっからそう言えよ……ばかっ」
「ああ、ごめんごめん」
フッと笑う声が、耳に入り込んでくる。
笑ってんなよ、ばか…。
俺、よく皆に明るいとか悩みがなさそうとか言われるけど、本当はすっごいネガティブ思考なんだからな。
俺の親にまで挨拶しに来てくれてんのに、
昨夜も「好き過ぎて苦しい」って言ってくれたばっかりなのに、
俺の方が好き過ぎて……俺ばっかりが好きなんだって、いつの間にかそう思い込んじゃって……
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