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いつもの匂いで[1]
朝ご飯を食べるとすぐ、引き留める母さんに別れを告げて、実家を後にした。
母さん、とっても淋しそうだったけど、きっと父さんがフォローしといてくれるだろう。
家に着いてすぐに、お風呂に駆け込んだ。
別に汗をかいてるわけでも汚れてるわけでもないけど、頭から体から、全部うちの匂いに戻したかったから。
「皐月、着替えここに置いておくよ」
脱衣所から悠さんの声が聞こえて返事する。
「ありがとう。俺が出たら悠さんも入ってね」
「はいはい」
しょうがないな、って風に笑ってる。そんな大人なところも好き。
今日は夜までずっと抱いてくれるって言ってた。
ほんとかどうかは分からないけど、全部ピカピカに洗っておかなきゃ。
悠さんを受け入れるところも綺麗に。
「……んっ…」
…だめだめ。こんなトコで1人で感じてちゃ。
さっさと悠さんにも入ってもらって、今日はずーっとくっついてるんだもん。
シャワーを済ませて出ると、適当に脱ぎ散らかしたスーツがハンガーにきちんと掛けられてあった。
「悠さん、ありがとう」
「ん」
被ってきたタオルで頭をわしゃわしゃ拭いてくれると、ちゃんと乾かすんだぞ、と釘を差して悠さんもシャワーを浴びに出ていく。
やさしいな。
だいすき。
早く出てこないかな。
あ!コーヒー飲むかな?紅茶がいいかな?
淹れておこう、とキッチンに向かって、ダイニングテーブルに用意してあったアイスティーのグラスを2つ見つけた。
「…もう。俺のやること無くなっちゃうじゃん」
甘やかし過ぎだよ、悠さん。
俺このままじゃ、なんにも出来ない役立たずになっちゃうよ。
グラスに口を付けながら、思わず顔がニヤけちゃう。
俺、大事にされ過ぎ。
なのになんで俺は、時々悠さんの愛を疑っちゃうんだろう……?
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