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答えられない

2人でシャワーを浴びて、まったりしてからお昼の用意をする。 シュリンプのトマトクリームスパに、シーザーサラダとコンソメスープ。帰りがけに買ってきたコンビニプリンがデザートだ。 悠さんが火を担当してくれてる間に、俺は洗ってもらった野菜を手でビリビリと裂いていく。 確かに腰は辛いけど立てないほどじゃないのに、悠さんに「明日に響くといけないから」って言われて、クッションを敷いたイスでの座り作業。 この気怠さや腰の重みだって、幸せなのになぁ。 悠さんって心配性……ううん、やさしい。 俺のほうが大抵仕事の帰りが早いから、同棲を始めるときに、平日は俺がご飯を用意するって申し出た。 そしたら、セラミックの怪我しにくい包丁やら、ノンオイルフライヤーやら、材料を入れればスープが出来るマシンやら、備付けオーブンがあるにかかわらずグリルで肉や魚が美味しく焼けるオーブンレンジやら、誰にでも調理可能な機具を買い揃えてくれて…… 更に、「俺が帰ってから取り出すから、出来上がってもそのままにしておくんだぞ」とか。 ───俺は小学生か! 仕方ないから言う事聞いてるけど……。 やっぱり悠さんは、心配性だと思う。間違いなく。 出来上がったご飯を2人で食べて、片付けに立ち上がろうとしたら、手で制される。 「ああ、いいよ。俺がやる」 「体、平気だけど?」 むっとして口を尖らせると、 「んー…、じゃあ、拭いてもらえるか?」 フッと口元を緩ませた。 「…うん……」 怒ってたはずなのに、恥ずかしくなる。 ズルい、悠さん…。その表情(かお)、好きです……。 「皐月、午後はどうする?」 片付けを終えて悠さんがリビングのソファーに腰を下ろしたから、当たり前のようにその膝に座る。 「ふふ~っ」 俺の特等席。 なんだか嬉しくなって、首にスリスリ。 「なんだ?マーキングか?」 悠さんは微笑って、やんわりと喉を撫でてくれる。 まるで悠さんの猫になったみたいで、恥ずかしいけど嬉しい。 暫くゴロゴロちゅーちゅーしながら幸せを噛み締めてると、ふと悠さんが口を離して、何か言いたげに口を開いた。 「あー…、皐月、な…?」 言いづらいことなのかな? 「はい」 返事をして、続く言葉を待つ。 悠さんは彷徨わせていた目を俺の目に固定させると、真剣な顔をして、息を吸い込んだ。 「俺の実家にも…行くか?」 「えっ…」 行く!と、思わず答えそうになって、 「っ…………」 ───だけど俺は、その言葉を飲み込んだ。 悠さんの家庭が複雑だってことは聞いてる。 もう10年以上家に帰ってないってことも。 そこに俺を連れてってくれるなんて、嬉しい! 分かってるつもりだったけど、分かってた以上に、俺のこと大切に思っててくれてるんだって……。 だから、嬉しいし、行きたい。 でも…… 前の時も、そうだった。 ゲイ婚しようって言ってくれた時も、即答した俺は、悠さんをちょっとだけ…失望させた。 何も考えてないって思わせて。 真剣に考えてくれって、怒られた。 俺は直情的で、物を深く考える人からは、何も考えてない感情で動く人間に見えちゃうんだろう。 実際、そうなのかもしれないし……。 だから俺は、すぐに返事をしちゃいけないんだ。 ガッカリさせたくない。 ……幻滅、されたくない。 俺は……、 「少し、考えさせて下さい…」 悠さんの膝から下りて、ひとり寝室へと向かった。

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