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お墓参り[3]

リュートさんのことを淫乱とか言う悠さんにプンプンしてると、指先でからかうように耳朶を撫でられた。 「なら俺からも訊くが、皐月はどうしてリュートをそこまで神聖化しているんだ?」 「神聖化なんかしてないけど、リュートさんは綺麗で可愛いから、変な風に言われんのがヤなの。夏木も、恋人なんだからまずお前が庇えよな!」 振り返って運転席の後ろの夏木を睨みつけると、奴は目を逸らして、ははは…と小さく笑った。 ははは、じゃなーい! 「皐月、前にお前が嫌がった大人の玩具、あるだろ?」 「…はぁっ!?なんだよ急にっ、ヘンタイっ!」 運転中だから叩かれないと思って、何言い出してるんだこの人っ!? 怒って足をばたつかせてるのに、まったく動じない。 「あれな、全部リュートに回ってるぞ」 「………なにリュートさんに押し付けてんだよ」 俺が断ったからってリュートさんに押し付ける悠さんが一番悪いんだけど…… 俺のせいでごめんなさい!変な物受け取らせちゃって。 恥ずかしくて振り返れないから、俯いたまま心の中でリュートさんに謝罪する。 リュートさんもきっと、恥ずかしくて俯いてることだろう。 「モニターとして受け取ったんだから、使用後アンケートへの回答が必要だろう?」 「だからって…!」 「…リュートさん、他にも隠し持ってたの?」 後ろから、はぁー、と夏木の溜息が聞こえた。 「……はい」 それから、リュートさんが力無く頷く声。 ───って、…えっ!? 「リュートさんってあーゆーの使う人だったの!?」 ガバッと振り返ると、リュートさんは俺と視線を合わせないようにするためか、両手で顔を隠すと俯いた。 「その…モニターって、結構いい小遣い稼ぎになると言うか…」 「小遣い稼ぎって、さ……」 「だって!功太も知ってるだろう。水槽の水道代も電気代もエサ代も、バーの光熱費で落とすなって兄さんが言うから、僕の収入から出してるんだよ!」 あのサイズの水槽の…。 それなら仕方ない。 うんうん、と頷いていると、夏木が労るように、 「これからは俺も半分協力するから。そしたらモニターとかやらなくて済むだろ」 とリュートさんの顔を覗きこむ。 「あ…うん…、そうだね…」 「って!その反応さぁ……、リュートさん?俺と付き合ってからは無いって言ってたよね?」 なんだなんだ?不穏な空気。 「ちなみに夏木、先月もリュートに1本流したぞ」 「へぇ……」 うっ、と言葉に詰まったリュートさんは、やがて僅かに聞こえる大きさでボソリと呟く。 「夜は仕事終わったら1時過ぎちゃうから……。功太、眠いからって全然相手してくれないじゃないか。平日の昼間はずっと1人で、暇を持て余してて…」 「暇だけじゃなく、身体も持て余してるんだろう?」 からかう様に意地悪を言うのは悠さんだ。 リュートさんは顔をカッと赤く染めると、悠さんを恨めしげに睨みつけた。 「元はといえば、初めに渡してきた兄さんが悪いんだろ!」 「あー、はいはい。怒らない。これから大好きなお祖母さんに会いに行くんだろ」 夏木が宥めようと頭を撫でるけど、リュートさんの目にはうっすらと涙の粒が浮かんでくる。 「もーっ、なに2人してリュートさん苛めてんだよ!」 人の秘密を暴いて笑ってる2人に、ドンドン腹立ちレベルが上ってきた。 「夏木、そういう態度取るならお前、途中で俺と場所変われ!俺がリュートさんの隣に座る」 「えっ?は?なんで??」 「なんでじゃねぇ!」 「皐月は俺の隣に他の男が居ても構わないのか?」 「は?夏木でしょ。何かあるの?」 「いや…、無いが」 「なら、俺がリュートさん守るから。恋人1人護れないような男は御役御免なんだからな!」 戸惑う夏木にビシッと指を突きつけると、今度はビックリして固まってたリュートさんがにわかに焦り出す。 「あのっ、皐月くん、大丈夫だよ!僕が、その……淫乱って言われちゃうのも、僕が皐月くんみたいに…」 「ちがうもん!リュートさんのは淫乱なんじゃなくて、エッチで可愛いの!」 ゆっくりと停車して、静かになった車内に、悠さんの溜息の音が聞こえた。 「夏木、皐月は男なんだよ」 当たり前のことを、困ったように話す。 てか、悠さん同性愛者なんだから、俺が男じゃなかったら付き合うこともなかっただろうに。なんの確認だよ。 「芸能人なんかを清純派女優だから処女って決め付けておいて、男の影が見え隠れすれば、あんなに可愛いんだから男がいない筈はないって。女性の神聖化、な」 そっ…それは……どうしたってしちゃうだろ? 俺、遊んでる女子とつるんでたことないもん。そう言うのは、極一部のヤバい子たちだけの話で、さ…。 「…悠さんだって、男相手にそういう事したりしないの?」 負け惜しみ、じゃないけれど、せめて睨みを効かせてそう言い返す。 「俺はそんな綺麗な世界で生きてこなかったからな」 悠さんは笑って頭を撫でると、前を向いて車を走らせた。 「リュート、お前だってそうだろ?夏木がエロくてテクあった方が嬉しいよな」 「別に。功太は僕と付き合うまで童貞だったけど!」 「ああっ、ちょっとリュートさんっ!」 …………悪かったな、夏木。なんか、……悪かった。 「それに、僕は結構ヤキモチ焼いたりしちゃうから、……功太が、僕が初めてって言ってくれて嬉しいし…?」 「リュートさん……」 夏木が感激したように名前を呼んで、リュートさんをぎゅーっと抱きしめた。 シートベルトを締めたままだから、体全部を抱き寄せることはできなかったけれど。 「皐月くんだって、兄さんが皐月くんが初めてだって言ってくれた方が嬉しいでしょう?」 リュートさんに、そう訊ねられて考える。 俺は、受け入れる側としてはもちろん始めてだけど、カノジョが居た時もあったから、夏木みたいにそれまで童貞だったって訳でもない。 悠さんは、モテるから相手に不自由しなかっただろうし、キスもエッチも気持ちいいし、きっと…いや絶対、童貞じゃない。 てか、30過ぎて童貞でしたとか云われたら、逆に驚く。もしかしたら引くかもしんない。 いや、世間的にどうとかじゃなくて、悠さん的に。アンタそのスペック持ってして今まで一体何してきたんだよ!って。 過去のこと全然気にならないかって言えば、話そうとしてきたら「あーあーっ」って耳塞いで聞きたくないくらい、嫉妬しちゃうけど…… 「今と、これからが俺だけでいっぱいだったら、…それで嬉しいかな」 そう思ったら胸の内がなんだか温かくなって、思わず表に出して笑っちゃってた。 「───俺の皐月は最高だろう?」 運転中だっていうのに、悠さんが手を伸ばして髪を撫でてくる。 危ないよ、と注意をしようとすると、 「「はい、敵いません…」」 後ろから、二人の台詞が被って聞こえた。 悠さんは可笑しそうにククっと笑う。 俺に敵わないって…なんだろう? そんな疑問が浮かぶけど…。 今はそれよりも。 「セリフ、被ってるよ。へへっ、ラッブラブ~」 振り返ってからかうと、リュートさんは恥ずかしそうに、夏木はちょっと照れたように、互いに見つめ合って笑った。

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