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母親[4]
【悠Side】
「あの子のこともね…、もう意地だったのよねぇ」
出口の扉を振り返って想うのは、リュートのことか。
「あの子の母親はね、妊娠して…。相手は決して教えないくせに、産むと言って聞かなくて。母は当然反対だった。私も反対した。父親も分からない子供を産むのは、子供も可哀想だろうって思って、ね」
貴方達も大概可哀想だけれどね、と言って笑っているが……、
まさか今だからこそネタで笑って許される、などと思っている訳ではないだろうな。
「……あの子の父親、ハリウッドの俳優よ。多分ね」
「えっ!?」
皐月と、麗までもが驚いたように顔を上げた。
「あの子が赤ん坊の頃にね、テレビに映ったその俳優を観て、貴方のパパよって言っていたのを聞いてしまったの」
俺は、ああ、やはり───と。
納得していた。
もしかしたらそれは聞き違いかも知れないし、リュートの母親の妄言かもしれない。
それでも母親の想う父親が誰なのか知っていたら、少しは………
「いや、言わない方がいいだろうな」
皐月がこちらを見て、首を傾げる。
「リュートがそれを知ったところで、会えない父親ならば居ても居なくても変わらないだろう。折角夏木とうまくいってて、今までで一番幸せな時を過ごしているんだ。わざわざ水を差す必要はない」
「あら、冷めた子」
「母さん、あれ貴女に対するイヤミですよー」
「あら、根性悪い」
女2人が俺を笑うと、皐月がそこに慌てたように切り込んだ。
「違いますよ!悠さんはすっごく優しいんです!リュートさんのこと弟として、すっごく大切にしてるんです!」
「やめなさい皐月、恥ずかしい…」
否定できる訳でもないが、改めて指摘されると辛いものがある。
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