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母親[5]

【悠Side】 いつの間にか、随分と打ち解けて話していた。 軽口も飛んで、……まるで家族みたいだな。 皐月がいれば、俺も家族を手に入れることが出来るのだろうか。 「麗も、そろそろリュートに対して大人にならないとな。お前もう28だろう」 「歳のことは言わないで!」 幼かった妹も、いつの間にか年齢を気にする歳になったようだ。 これは、男がいないか、結婚を渋られているか、だな。 勝手に想像して笑っていると、気不味そうに視線を逸らされる。 「だって、仕方ないじゃない…」 その仕草に、子供の時分を思い出した。 「リュートは、王子様だったのよ」 妹の言葉は意外だった。 「あの人が戻ってきたの、小学校に上がってからだったかしら?」 「そうだな。リュートは小5、お前は小1だったか」 「ブロンドヘアに蒼眼の綺麗な男なんて、女の子から見たらそりゃ、王子様よ」 「やっぱりリュートさん、昔から可愛かったんだぁ。麗さん、写真っ写真っ!」 皐月、そんなところに食いつくな…。 「今度見せてあげるわよ」 「わーい!ありがとう、麗さん。悠さんの写真もある!?」 「はいはい、探しておくわ」 ……いや、打ち解け過ぎだろう、皐月。 はぁ、と思わず溜息が漏れた。 「で、構って欲しいからちょっかい出すじゃない?なのに常にリュートは無反応か、すぐにどこかに行っちゃって。そんなの腹立つじゃない。先に私が大人気ない態度を取られていたの」 だから向こうから折れてこないと許さない、と言う麗の意見も最もだ───が。 「母親と二人暮らしの家でリュートは、家政婦から2度も襲われたんだ。傷害じゃなく、強姦の意味でだ」 俺からすべきではなかったかも知れないカミングアウトに、皐月と麗は同じ表情でこちらを見つめて、固まった。 母親は、聞いていたのかもしれない。 変わらずこちらを見つめたまま、お猪口をクイッと煽る。 「一人目は30そこそこの女だった。リュートはその場で嘔吐し、未遂に終わったらしい。  その女はすぐに切り、新しく来たのが20代の男の家政夫。偶々早く帰ってきた母親が止めに入り、こちらも未遂で済んだそうだ。  女も男も他人は信用ならない、そう母親が判断し、実家に戻したらしい」 リュートの母親はホテルの客室係をしていたから、子供の面倒を一人で見るのは大変だったのだろう。 しかし、事は「未遂で済んでめでたしめでたし」では終わらなかった。 「女に襲われた時は吐くほどの嫌悪感があったのに、男に襲われた時は、怖いが嫌ではなかった。リュートは元は人懐こい子供だったから、その2人とも仲良くやっていたらしい。2人の土俵は同じ筈だった」 「……それで、リュートさんは気付いたんだ…」 「そう。自分の性癖に気付いてしまった。男しか愛せないのだと。後は、簡単な話だ。10やそこらの子供に受け止められる現実じゃあない。自分が怖くなる。他人が、怖くなる」 「それで、小1の女の子すら避けたって言う訳?」 麗の眉間にシワが寄っている。 やはり、理解することは難しいだろうか。 「人と関わり合いになることが怖かったんだろうな」 「悠さんも、気づいた時…怖かったの?」 大きな瞳が、心配そうに見上げてくる。 「いや、俺はこの人の息子だからな。リュートよりも図太いよ」 笑って頭を撫でると、皐月はその手に顔を擦りつけた。

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