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世界中みんな
夏木さんはどういう人なの?と、小雪さんに訊かれた。
「夏木は俺の同僚で、営業部所属です。先輩たちからも可愛がられてて、仕事も頑張ってて、えと……俺の友達なんです。夏木はいいヤツです!」
夏木のことをしっかり褒めて伝えてやろうと思ったのに、ヘタクソな言い方になってしまった。
だけど小雪さんは「じゃあ、彼もいい子なのね」と微笑んでくれる。
───なんだ…。
ホッと息を付く。
悠さんが言う血の通ってないおっかない人を想像してたから、執拗に緊張しちゃってた。
小雪さんもちゃんとお母さんだし、麗さんもこの前みたいに怖くなくて、普通に話しやすい人じゃないか。
駐車場に駐めた車に戻って、後ろの窓をコンコンする。
夏木がすぐに窓を開けてくれた。
「夏木のこと、いい子なのね、だって」
「は?なに?」
「んでこれ、リュートさんと夏木に、後で食べなさいって」
俺達も貰ったんだ!と、もう一方に持っていた同じ包みを見せる。
小雪さんがくれた、小料理屋のお料理が何品か入った『お母さん特製お夕飯』だ。
夏木から包みを受け取ると、リュートさんは俺に向かって首を傾げた。
眉間にシワが寄ってて、すっごく訝しげ、って感じだ。
「あのね、リュートさん。仲直りしないまま亡くなっちゃったから、まだ姉妹 喧嘩が終わってないんだって。巻き込んでごめんね、って」
「それは、…その、……伯母さんが?」
「うん。今度はちゃんと喧嘩腰じゃなく話しますって」
「……そう」
小雪さんの口癖と同じ相槌を打って、リュートさんは俺から顔を背けた。
夏木はリュートさんの目元を掌で覆って、その体を背中から抱き締める。
俺はそれを見ないフリして、助手席に座った。
運転席のドアが開いて、悠さんも乗り込んでくる。
「リュート!」
ドアが閉まる音と同時に───それよりも大きなボリュームで、女性の怒鳴り声が響いた。
「私っ、アンタのこと嫌いじゃないからっ!」
エンジンが掛かって、車がゆっくり動き出す。
「また来たら、今度はもっと構ってあげる!」
「なに、それ……」
小さく掠れた声が聞こえた。
車の外には、麗さんの仁王立ち姿。
俺が手を振ってるのに気付くと、視線を緩めて手を振り返してくれた。
窓を開けて、呼びかける。
「麗さん、またねー!うちにも遊びに来てね!」
「あー、はいはい。暇があったらね」
「あの短時間で、どうしてここまで打ち解けられるんだよ、広川は…」
麗さんに会釈をしながら夏木がボヤく。
「え?何気にいい人だったよ。麗さんも小雪さんも」
「皐月くんに掛かったら、世界中みんな良い人になっちゃいそう…」
「もしかしたら、ほんとは…そうなのかも」
良い人と悪い人がいるより、良い人ばっかりの方が、世界が優しくて嬉しい。
だから、世界中みんな良い人って、とっても素敵だと思うな。
振り返ってそう伝えるとリュートさんは、「素敵っていうか、……無敵だよね、皐月くんは」と苦笑しながら答えてくれた。
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