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引っ越し[1]

「よろしくお願いします」 最後の荷物を持ち出す業者さんに挨拶して送り出すと、悠さんは部屋を振り返り大きく息を吐いた。 「からっぽだね」 がらんどうの部屋は、───広いとは思っていたけれどそれよりもずっと───やけに広く感じる。 此処に居られるのも、今日でお終いだ。 窓辺によって、外を見下ろした。 眼下に広がる東京の街並み。これからは、展望台や高いビルに上らないと見ることが出来ない。 「悠さん…」 背中から抱きしめられた。首だけ振り向いて顔を見上げる。 「いっしょに…見納めしよ」 「ああ」 最後の景色はなんだか感慨深くて、少しだけ…ほんの少しだけ、涙が目に滲んだ。

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