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引っ越し[5]

俺はどうやら頭脳的にも体力面でも期待されていないっぽい。 その証拠に、まず午前中、業者さんに何処に何を置くかを記憶して指示を出すのが悠さんとリュートさん。 そして午後、細かい移動の力仕事は悠さんと夏木。 俺はそれが終わってから荷解きするようにと言われている。 怪我をするから端っこでおとなしく、と言うのはまあ俺に気を遣ってくれている言い方であって、邪魔にならないよう端に居なさいって事なんだろうな、とは流石に理解している。 もしかしたら悠さんのことだから、本当に怪我をさせたらいけないと思ってる可能性は否定できないけど。 だから今はつい逢いたくなって探してしまったけど、その後は命令通りおとなしく、おとなしく、邪魔にならないトコを探して夏木と2人、移動して回った。 「なんとなく探検みたいで楽しいな」って声を掛けると、夏木は近頃にしては珍しく俺に同意して、 「隊長!あそこに怪しげな洞窟が!!」 なんてダンボールの山を指さす。 洞窟、と言うにはあまりに狭い。ダンボールとダンボールの間にちょっとの隙間があって、その上にまた別のダンボールが積み重なっている。 腕ぐらいなら通るかな? 「夏木隊員、あの洞窟に潜入し給え」 「えっ!?隊長が先に行ってくれるのではないのですか!?」 「いや…、私はこの探検を最後に、引退しようと思っているんだ」 「隊長!?」 「次の隊長は、君に任せた。───夏木隊長」 「っ……隊長ーッ!!」 「さあ、怖れずに行くんだ!」 「……隊長、どうした事でしょう!私の身体は隊長よりもゴツくて、この洞窟には拳はおろか、ち〇この先すら入りません!」 「何を見栄を張っている、夏木隊員!」 「ここはやはり隊長自ら先陣を切って、突入、おねがいします!」 「……わかった。よし、行くぞ、夏木隊員!」 「はいっ、隊長!」 ゴリ、と拳の両脇に当たる感触をこじ開けて、隙間を先に進める。 なんとか肘まで入った。 「何も見当たらないようだ。もう少し進んでみるか?」 「はい、隊長…」 ゴクリと唾を飲み込む夏木隊員。 俺は先を目指して、身体を更に低く腹這いにして─── 「黙って見ていれば、お前たちは何を遊んでいるんだ」 腰を掴んでズルリと引きずり出された。 「えっ、ぃやっ……」 悠さんに、コラ、と頭を小突かれる。 痛くないけど、恥ずかしい……。 なんだかとてつもなく恥ずかしい…… 「皐月、そんなことをしたら危ないって事は分かるな?」 「はい。ごめんなさい」 「それから夏木、うちの子の前で卑猥な言葉を口にしないように」 「はい。すみませんでした」 女友達のお父さんみたいな台詞で怒られて、夏木も情けなく頭を垂れる。 だけど次の瞬間、 「じゃあ、取り敢えず荷物の運び入れも片が付いたし、ランチに行くぞ」 悠さんの言葉に夏木はガッツポーズで応え、俺と悠さんはそのゲンキンさに顔を見合わせて笑ったのだった。

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