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引っ越し[7]

夏木と入れ替わりで新居に帰って、荷物の仕分けを始める。 玄関を開けて「ただいまっ!」って言ったら、書斎から迎えに出てきてくれて、「おかえり」って、抱っこで寝室まで連れてってくれた。 「片付け終わってないけど……スるの?」 ベッドに下ろされて抱っこのままの手を悠さんに差し伸べると、 「こら、誘惑しない。片付けが先だろう」 おでこをツン、と突付かれた。 そんな訳で、悠さんと離れ離れで、今俺は寝室の片付け中。 ウォークインクローゼットに収納する以外の俺の私物はこの部屋に置くから、寝室の片付けは俺の担当だ。 「よし、気合入れてくぞ!」 声を出してガンバロー!ってしないと片付けをやる気が起きない怠け者の俺。 でもここは寝室で、悠さんと一緒に寝るとこだから、ちゃんと綺麗に、綺麗にって言い聞かせて。 まずこっちの収納に収める分をやって、それから本棚を。 それから一時間ぐらい経った頃だろうか。 コンコン、とノックする音が聞こえて、ドアが開いた。 慌てて顔を上げて、持っていた物を体の後ろに隠す。 「あ、悠さん、お疲れ様です」 「皐月。今隠したもの──」 「何も隠してません!」 「いや、隠しきれてないから、隠したいならもう少し上手くやろうな」 指先でおでこをツンとやられて、自分の情けなさについ仰向けに倒れ込んでしまった。 「ごめんなさい…」 「いや、殆ど終わってるじゃないか。上出来だ」 頭を撫でられる。 悠さん、それはいくらなんでも甘やかし過ぎです……。 「あと これだけか?2人でやればすぐに終わるな」 俺が隠し損ねたコミックスの山を指差されて、申し訳なさでいっぱいになった。 「ありがとう、悠さん。俺がんばる!」 「よし、終わったら外に食べに行くぞ」 「はい!」 スポ根よろしく返事をして、巻数順に本を数冊毎渡していく。 俺が読み終えた11巻までの隣から、読んでる途中の12巻、まだ読み進んでない13巻と、綺麗に並べられていく。 「凄い巻数だな」 50巻を過ぎたころ、悠さんが感心したように呟いた。 「うん、それ凄い人気作品なんだよ。悠さん知ってる?」 「ああ、ニュースやクイズ番組でも取り上げられてたな」 3段目に本をしまいながら、俺が仕舞った分の、他の段の本を見渡す。 「皐月の本棚は少年漫画ばかりだな」 「うん。少年マンガはいいよー。戦闘モノもスポーツ物も好き。努力、友情、勝利!」 「パンチラや巨乳の漫画は読まないのか?」 「本誌では流し読むけど…、コミックスは買わないよ。恥ずかしいじゃん、あんなの」 てか、悠さんからパンチラとか巨乳とかって言葉発して欲しくないし…… 「女の子は、袖付いた服着て胸元はちゃんと閉めて、ひざ下丈のスカートを穿いていればいいんです。で、うふふって笑うの!」 「皐月は随分と古風な女が好きなんだな。今時いないだろう、そんな上品な女は」 「あっ、ヒドイ悠さん!違うもん」 ほっぺを膨らませてプイと顔を背ければ、何がヒドいのかきっと分かっていないくせに、悠さんは「ごめんごめん」と苦笑して頭を撫でてくる。 「もーっ、俺は別に古風な女の子が好きな訳じゃないからね!」 「はいはい」 最後の巻を渡すと、悠さんはブックスタンドで端を締める。 俺は、振り返ったその胸に─── 「俺は、悠さんが好きなんです。もう女の子とかどーでもいいんです!」 抱きついて、顔を埋めた。 「っ……、皐月…」 悠さんは俺の名前を呼んで、それからぎゅーっと抱き返してくれる。 「俺ももう、皐月以外の男はどうでもいい」 「当たり前だろ。悠さんが先に、俺に惚れたんだから」 「なんだよ。惚れられたモン勝ちか?」 「違うよ。だって、俺の方が悠さんにいっぱい惚れちゃってるもん」 「残念だったな、皐月。愛の深さなら俺の方が僅かに勝ってるぞ」 我ながら、アホみたいなカップルだ。 世界の真ん中で愛し合ってるみたいな顔して、俺達きっとずっと、お互いしか見えてない。 だけど俺達は、恋に溺れてるわけじゃない。 きっと底の無い、愛に溺れているんだ───なんて。 やっぱり俺の頭ん中、お花咲いちゃってるのかな? そんなこと思ってみても、恥ずかしいのはちょっとなだけで、その何倍も何十倍も、そう思えることが嬉しいって思う。

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